駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『ひらいて』 綿矢りさ

なんて、暴力的な本なんだ。
別に拳を突き合わせるわけじゃないけど、剥き出しの感情が暴れまくってる。
そのくせ、表面的にはなんてことない振りしちゃってるのが、空恐ろしい。
だけど本当は誰もみんな、心にこんな荒々しさを抱えてるのかもしれない。
だって、どこまでも自分本位な主人公に何だか心惹かれてしまうんだもの。
誰かをこんなになるまで、欲したいって望みが無意識の底にあるのかもしれないな。

<内容説明>
やみくもに、自分本位に、あたりをなぎ倒しながら疾走する、はじめての恋。彼のまなざしが私を静かに支配
する――。華やかで高慢な女子高生・愛が、妙な名前のもっさりした男子に恋をした。だが彼には中学時代か
らの恋人がいて……。傷つけて、傷ついて、事態はとんでもない方向に展開してゆくが、それでも心をひらく
ことこそ、生きているあかしなのだ。本年度大江健三郎賞受賞の著者による、心をゆすぶられる傑作小説。

綿矢さんの本を読むのは、数年ぶりで、これが二冊目。
以前、「夢を与える」という本を読んだ時、いまいち良さがわからなくて、以来読んできませんでした。
だけど、綿矢作品を友人からすすめられたり、他の方のブログ記事でよさげなのを見て、再挑戦!
 
文章が、とても好みなのにびっくり。
こんなどストライクな文章書く人だったんだと驚きました。
最初は、高校生の女の子の片想いの様子が描かれてるんですね。
それがもう共感しまくりで、「そうそう!!」と一緒にときめきながら読んでいくんですけど、
彼女の想いがどこまでも昂じて、やがて事態は思わぬ方向へ。
「そんなことまでやっちまいますかーーーっ!」と主人公の暴走ぶりに唖然。
どん引きしそうな展開に一瞬ついていけなくなりそうになるんですが、どうにも目が離せないんですよね。
危なっかしくて、妙に惹かれてしまうんですよ。
 
ラストまで読み終えて、これだけの荒々しさと暴走をもってして、
ようやく誰かの何かに届くのかもしれないな、と思ったりする。
私たちは普段みんな閉ざしていて、そうそう中身を曝け出さない。
オブラートや仮面で繕った姿で、お互いがやりとりしてる。
祈りを込めた折り紙を丁寧に折るように、想いを懸命に閉じ込めてしまってる。
何気ない接点でさらっとうちとけあえることもあるけれど、
一方的な想いで相手を開こうとするには、相当の破壊力がいるのだ。
 
「ひらいて」
と、タイトルは軽やかに言うけど、
そこにたどり着くまでを描く、この本の中に詰め込まれた衝動はかなりのものだ。
あどけない少年は、それをなんてなくやってのけちゃうけれど。
人は経験とともに、色んなものを被り過ぎてしまって、やすやすとはひらかれなくなってる。
彼女を痛々しく見てしまう時、私は、世間体とか、常識とか、
いろんなものにコーティングされていることを自覚する。
生活していくためにそれらは必要なものだけど、
自分を取り繕う被り物で、身動きがとれなくなっていないだろうか、と問われてる気がする。
 
主人公の彼女の暴走とともに一気読み。面白かったです。
ただ西村君の言動がちょっと違和感。イマイチ彼がつかみにくかったです…。