駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『ロスト・ケア』 葉真中顕

よくできた作品だなーと思いました。
最後の怒涛のような流れが圧倒的で、呑みこまれてしまいそうでした。
文章がちょっと私の好みではないんですけど(クセはなく読みやすいんですけどね)、
展開はこなれてて読ませてくれます。
ただ、私が現在介護とはあまり縁がない状態なので、エンタメ小説として読めたのかなと思います。
例えば、ラストの展開は、エンタメ作品として読むとすごくうまく繋げられてるように感じるけど、
実際介護に関わってる人に、あの突き抜けた解釈は沁み込むものなのでしょうか??
実際介護をされてる方などが読まれると、また感想が違ってくるのかもしれません。
 
<内容紹介>
社会の中でもがき苦しむ人々の絶望を抉り出す、魂を揺さぶるミステリー小説の傑作に、驚きと感嘆の声。人間の尊厳、真の善と悪を、今をいきるあなたに問う。第16回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。

統計数字など、説得力のあるデータが次々と並べられて、介護の現場が細かく見えてきます。
漠然と、新聞記事で読む程度に介護職は大変で割に合わないという認識はありましたが、
ほんと政府の策略か!?と思える介護保険の変遷にぞぞっとなりました…。
介護ビジネスについて本書で書かれていた、
「「介護」と「ビジネス」という、相容れないものを掛け合わせてしまったキメラのようなグロテスさ」
という言葉に思わず納得させられます。
福祉をビジネスにするのは、やはり格差を生む原因になってしまうんでしょうねぇ。
かと言って、国任せでも膨れ上がる高齢者に対応できないですものね…。
本当に難しい問題だと思います。
 
介護の現場の悲痛な叫びが胸に痛いです。
ここで書かれてる介護現場の様子は実際にどこにでもあることなのでしょう。
そんな八方塞がりのような状況の中、一人の男の出した答えが、「ロストケア」。
幾重にも絡み合う人間関係の中で、善意と悪意が入り乱れます。
それぞれの人の数だけ主張があって、彼らなりの正義がある。
だけど私が介護にあまり携わってないからか、「ロストケア」の思想には共感しづらかったです…。
 
あと、少し惜しいなというのも感じました。
ミステリー要素がうまくハマってないように思えて、どんでん返しはちょっと余計かなと思ってしまった…(^_^;)
もっと純粋にこのテーマに取り組みたかったかな。
だから重いテーマを扱ってて、かなり突き詰めた深いことを言ってるんだけど、
どこかエンタメ色がぬぐえない感じです。
その分読みやすくはなってるんだけど、ちょっとちぐはぐさを感じてしまいました。
このさじ加減は読み手の好みの問題だと思いますけどね。
 
最後にちょっと…。本の最後に、編集部からの但し書きにになるのかな?
『実在の社会制度や物事について記述した部分もありますが、その内容は必ずしも正確ではありません。(中略)あくまでもミステリー小説としてお楽しみください。』
とあって気になってしまったんですが…(^_^;)
 
と、ごちゃごちゃと気になる点を書いてしまったのですが(^_^;)、
純粋に小説として見れたら、完成度は高いと思います。
読みだしたら一気に読めちゃいます。読み応えのある作品でした。