駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『鏡の花』 道尾秀介

久しぶりの道尾さん。
好きだった『光媒の花』の続編(話は全然繋がってないけど)と知り、読んでみました。
こちらもよかったです~。

事前にパラレルな短編連作集ということを知っていたので、
どんどん変わっていく設定に戸惑うことはなかったです。
でも知らなかったら相当混乱しただろうな…(^_^;)
 
<内容紹介>
少年が抱える切ない空想、曼珠沙華が語る夫の過去。
老夫婦に届いた 絵葉書の謎、少女が見る奇妙なサソリの夢。
姉弟の哀しみを知る月の兎、 製鏡所の娘が願う亡き人との再会。
ほんの小さな行為で、世界は変わってしまった。それでもーー。
六つの世界が呼応し合い、眩しく美しい光を放つ。
まだ誰も見たことのない群像劇。

一つの花を、それを囲んだ五つの鏡が映すイラストにあるように、
同じ家族設定のお話が少しずつ過去を変えて描かれます。
ほんの少し何かがズレるだけで、こんなに違った世界になりうる、誰かを永遠に失ったりしてしまう。
でもここで描かれるのはそういう喪失の恐怖ではなく、
例えどんな道であろうとも、光はあるし、人は生きてゆけるのだ、ということ。
 

(すこーしネタバレ気味かな?気になる方はご注意ください)
 

全6編からなるこの作品の最初の5編は、それぞれ誰かを失う話です。
どれもささいなことが死へ至るきっかけとなるので、やりきれません。
だけど主人公は傷を負いながらも、なんとか乗り越えていく姿がそれぞれで描かれています。
辛いけれど不幸ばかりではない、残された人たちで温かく絆を深め、
囚われていた罪悪感を少しずつおろしていく過程が見られます。
喪失の傷を完全に癒すことはできないけど、物語のラストはどれも仄かな光が見えます。
失った人、そして晴らされることはないと思っていた疑念に囚われてきた日々。
だけど歩みを止めなければ、彼らは先へ進むための新しい事実を見つけることができるんですね。
 
最後の話では、これまで誰かを失ってきた家族が全員そろったお話になっています。
では一番幸せかというと、なかなかその幸せを実感できてない状況が描かれています。
失わないと気付かない、いつも言われることで頭でわかってるけど、実際はこうだよな、と思ってしまう。
欠けることのないありがたさを当たり前に思ってしまって、その関係を疎かにしてしまう。
それはある意味、不幸ともいえると思います。
失った後悔の中で深める絆と、当たり前すぎて疎かにしてしまっている絆。
その対比が皮肉気に描かれています。
失ってその大切を心底思い知るべきなのか、大切さに気づかぬまま傷を負わずにいた方がましなのか。
人生の選択肢って、そんな悲しい二択だけじゃないですもんね。
こうだったらよかったのに、こうすればよかったのにと後悔ばかりにとらわれるのではなく、
今、自分が生きている道を大切にすること、そういうことを道尾さんは言いたかったのかなぁ、なんて思いました。
 
「光媒の花」も良かったけど、それよりどす暗いものを更に落としたような今回の作品はほんと素敵でした。
『死』から逃れられないお話たちなのに、こんなに美しく消化させちゃう筆力に感嘆しました。
暗い中でもずっと仄かに光が差しているような、そんな静かに凛と咲く作品でした。