駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『黒猫の刹那あるいは卒論指導』 森晶麿

黒猫シリーズ4作目。

楽しかったー!!
ポー解釈本としても、恋愛小説としても、どちらも楽しめて、二度おいしい作品でした♪
一作目の時は本当に難解で、面白いけど読むのが大変~と思っていたのですが、
今回のはかなり読みやすくなっておりました!作者も読者も慣れてきたのだろうか。

<内容紹介>
大学の美学科に在籍する「私」は卒業論文と進路に悩む日々。
そんなとき、唐草教授のゼミでひとりの男子学生と出会う。
なぜか黒いスーツを着ている彼は、本を読み耽るばかりでいつも無愛想。
しかし、ある事件をきっかけに彼から美学とポオに関する“卒論指導"を受けて以降、
その猫のような論理の歩みと鋭い観察眼に気づきはじめ……
『黒猫の遊歩あるいは美学講義』の三年半前、黒猫と付き人の出会いを描くシリーズ学生篇。

今回はポーの短編6作がモチーフとなっているんですが…ふふふ、以前ポーの予習をしたおかげで
全作既読作品でしたよ~。
この短編集を読んで、どれもなかなかに奥深く、「是非、黒猫に解体していただきたい」と思っていたので、
今回の黒猫シリーズは本当にうれしかったです。
ちなみに私が読んだ↓の二冊で、今回の作品が網羅できますよ。
 
『黒猫/モルグ街の殺人』 エドガー・アラン・ポー 小川高義・訳  光文社古典新訳文庫
収録作…「黒猫」「本能vs理性─黒い猫について」 「アモンティリャードの樽」「告げ口心臓」「邪鬼」
ウィリアム・ウィルソン」「早すぎた埋葬」「モルグ街の殺人」
 
『黒猫・アッシャー家の崩壊─ポー短編集<1>ゴシック編』 
エドガー・アラン ポー・著 巽孝之・訳 新潮社
 収録作…「黒猫」「赤き死の仮面」「ライジーア」「落とし穴と振り子」「ウィリアム・ウィルソン
「アッシャー家の崩壊」

シリーズが進むごとにじれったい二人の仲がじわじわと進んでいくわけですけど、
今回も更なる親密ぶりににまにましてしまいました…って、今回は過去話なんですよね!?
だけどシリーズ中、一番態度が露骨でしたよ、黒猫さん!
え、何、これはどういうこと?
初めて出会って、しょっぱなから黒猫は思わせぶりな態度全開で挑んだのに、
反応が鈍すぎる付き人ちゃんに呆れて、帰国後態度が一旦ちょっと淡白になったとか、そういうことなの?
もしくは学生時代は、付き人ちゃんをからかってやろうとしてひっかけてみたのに、思ったような反応がなくて、
帰国後じわじわ本気になってきた、とか…??
いや、これは多分そんな深読みするとこじゃないと思うんですけどね(^^ゞ
あまりに今回の黒猫さんが甘々なので、「うきゃー」とのけぞりながら、そんな考察を巡らせてしまいました(笑)
 
さて、短編ごとに少しずつ感想を。
(ネタバレありと言えばありだけど、多分これは複雑すぎてネタバレにはならない気がする…)
 
「数寄のフモール」(「落とし穴と振り子」)
黒猫シリーズらしい、美学が絡んだ一般常識の通じない世界の事件です。
後半緊迫した雰囲気ではらはらさせられるのに、真っ黒な書物の正体がアレですものね。
「落とし穴と振り子」のキーワードが<滑稽>だというのに驚いたんですが、
恐怖の中でも、客観的に見れば滑稽にも見えるというとで、この作品と共通してるのかな。
そして<滑稽>で紐解かれる利休の数寄は、今まで理解不能と思っていた利休エピソードが
ちょっとわかってくる気がしました。
 
「水と船の戯れ」(「早まった埋葬」)
付き人ちゃんが作った話を、作者以上に深く解体なされる黒猫さん。どんだけ愛情深いんでしょう(笑)
彼女以上に彼女の深層心理を見抜いてるってことですもんね。
そして謎解きをする過程で、進路に悩む彼女にさりげなくアドバイスもしちゃったりしてね。やさしいなぁ、もう。
作中作の解釈は、付き人ちゃんの深層心理分析にとどまらず、
ポーにまで絡んできてとても興味深く読みました。
 
「複製は赤く色づく」(「赤死病の仮面」)
黒猫が消えた、というミステリ自体はなんてことない話なのに、話の引っ張り方が非常に巧み!
翻弄されるように読んでしまいました。
さらにはこれ読んで、「赤死病の仮面」の解釈に恐れ入りました。
この話の印象は、やたら視覚イメージを刺激するお話だなーと思うだけだったのに、
黒猫にかかれば奥に潜む別の顔が見えてきます。
「グロテスクの複製品」だなんて!そんな当時の時代背景まで読み取ることができるんだ~。
鶏が出てきて、美学と鶏と言えば若冲語りが始まるかも!と期待したけど、
それにはわずかに触れただけでした…。ちょっとそれだけが残念だったな(^^ゞ
 
「追憶と追尾」(「ウィリアム・ウィルソン」)
大好きな「ウィリアム・ウィルソン」が出てきてそれだけ大喜び(笑)
しかもタイトルの謎解きもあって、このポーの不可思議な話が少しわかりそうに思えました。
「常に生まれ変わる細胞によって更新される自己を描こうとした」か…うん、なるほど。
「ウィリアム~」が好きな作品のせいか、謎解きも頑張っちゃって、このミステリは先に解けちゃいましたよ(^^)/
二人のラブラブな食卓風景もにまにましながら読んじゃいました。いいなー、黒猫の手料理。
しかも口に入れてもらっちゃって。これで付き合ってないというんだから、不思議だ!
 
「象られた心臓」(「告げ口心臓」)
意味わからんと思った「告げ口心臓」が<ラベルと内容の不一致>ということで、
なんだか納得いくように思えるから不思議。なるほど。
それに絡めた、自殺未遂事件のお話。ポーカーゲームの黒猫の言い分には読みながら首を傾げたりしたけど、
黒猫が結局どっちでもよかったってことで納得しました。
付き人ちゃんを賭けて、黒猫がカードゲームに挑むというシチュエーションだけで、萌えました(笑)
 
「最期の一壜」(「アモンティラードの酒樽」)
これは一番余韻の残るお話でした。
「アモンティラードの酒樽」に出てくるフォルトゥナートが<幸運な人>という意味で、
主人公の名前が「モントレゾール」(私の宝物)。そっかそんな意味が隠されていたのか…。
復讐劇だと思ってた話が、本当は「友情」を描いていた…表層的な面だけに囚われて、
その下に潜む真相を無視してしまうと、途端に物語はありきたりなものになってしまう。
もっと目を凝らして、もっと深く探り合うことで、人生や人間関係は深みを増すんだろうな。
それは簡単なことじゃないけど。

とにかく全編で、黒猫の付き人ちゃんへのアピールが半端ないんですよー。もう悶えるばかり…。
これで二人が付き合ってるってことだったら、ただの惚気にしか映らないんだろうけど、
そうじゃない微妙な関係だからこそときめくんですよねー。ああ、森さんの思うツボ…(笑)
このじれったさがたまらないので、もうしばらくこの関係を続けていってほしいかな、なんて思うのでした。
ああ、また続きが待ち遠しい~。