駄文徒然日記

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『小説 平清盛』 高橋直樹

例のごとくの、源平関連本です。
初読みの作家さんでしたが、ちょっとマニアックな感じでした。
新書の教養本のような内容を小説風に書いた感じと申しましょうか。
史実や史料を元に、それに作者の解釈、考察等で肉付けした感がありました。
源平ものというと、平家物語がベースになることが多いですが、
(多分)史料中心としたこちらはだいぶ趣が変わります。
宮中の貴族や寺社勢力の記述が多く、
武家の清盛がそれら相手にどう攻略していったかが描かれてるんですね。
ですので、ドラマティックな「小説」を期待すると、ちょっと面白みに欠けるかもしれません。
でも、この時代に興味がありながら専門書を読むのは無理!という私には、
読みやすくとても興味深い内容でした。

清盛というと、一般的にいいイメージがないようですが、
やっぱすごい人ですよ、立派な人ですよ、清盛は!(私は平家推し!)
この本は保元の乱あたりから清盛が死ぬまでが描かれているんですが、
あの栄華を極めるほどの傑出した力量はさすが。
その果断ぶり、洞察力、周到ぶり等、ほんとすごい人だったんだなぁ、と思わされます。

で、彼が戦うのは源氏、ではなくまずは寺社勢力だったんですね。
当時の寺社の権力、財力、武力は相当のものだったようです。
それでいて、明確なトップがいるわけではないので、倒しようがない、という。
彼が厳島神社氏神を置いて整備したり、福原に遷都しようとしたのは、
寺社勢力の空白地帯であったからというのが、理由の一つであるといいます。
そして国際感覚が皆無の当時に、信西の影響で、日宋貿易をすすめようとしました。
そんな、経済・交易に非常に柔軟で敏感だった様子が描かれています。
その前例や慣習に囚われない、斬新な発想力、行動力はすごいです。
これ読んでると、織田信長にすごく通じるものを感じました。
清盛も彼くらい人気あってもいいのに…(涙)

そして宮廷で力を持つために、
重盛に、宮廷の者たちに受け入れられるよう変われと命じ(平家の公卿化)、
宮廷受けのよさそうな美男・維盛を重盛の跡継ぎと定めます。
うーん、それで武士っぽくない維盛が、
のちに総大将を務めなければならなくなったりしたんでしょうね(^_^;)
寺社勢力とのバトルが詳細なこの本では、
重衡の南都焼討についてもページが割かれていて、興味深かったです。
重盛の殿下乗合事件については、清盛に貴族化を命じられて大人しくしていた重盛が、
この事件においては武士の矜持をもって、激しく対抗したという解釈になっていて、
その辺も読んでて面白かったです。
高倉天皇のお気に入りだった維盛や重衡の、
宮中での他愛のない場面も微笑ましくてよかったです。(だって平家推しだもの)
熊野別当湛増さんがちょっと出てたのも、なにげにうれしかったり…(笑))

そして源氏の旗揚げの様子も詳細に描かれていました。
(頼朝より、源頼政の方が出番多いです・笑)
関東で武士をまとめ上げるのは、ほんと大変だったんですね…。
もっと平家打倒に一丸となってるのかと思ってました(^_^;)
頼朝がうまくやった部分もあるし、平家の不手際もあって、源氏の勢力拡大が進んでいくんですね。

平家の栄枯盛衰の流れを、権力、経済・交易等を主として非常に丁寧に解釈されていて、
わかりやすい本になっています。
ただその分、小説としての面白味には少し欠けるかもしれません。
この時代を詳しく知りたい人にはお勧めの本です(^^)