駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『スペードの3』 朝井リョウ

朝井さん好きだー!!!と感想のたびに言っている(笑)
だって読むたびにそう思うんだもん。基本、彼の比喩がツボなんですよね。
読みながら、なんて表現するんだーって、その文章にぐあーって身もだえます(笑)
その比喩はだんだん「これでもか」感がなくなってきて、今作はずいぶんこなれた感じになってました。
文章にいい具合になじんできた気がします。なんか風格出てきたな。

そんな感性の鋭さは相変わらずで、それでいて毎回、作風が違ってるのがすごい。
今回は女性作家さんですか!?って感じでしたよ。
女の子視点で描くのはデビュー作から巧かったけど、
どこか乾いてさっぱりしてたのに、今回はじめっと感が出てました。
それでも女性作家さんのように、胸に痛いどろっと感はまだ薄かったですけど。
今回は結構、ありがちじゃない人が主人公になってるから、より胸に痛い共感から遠かったのかもしれません。
それでも回想シーンの、小学校が舞台の女子の心理描写とか非常に巧みでしたねー。
あと、朝井さん自身が社会人になられたからこそ書ける描写も、ちらちら見られて面白かったです。
社会の歯車を象徴してる名刺のくだりなど、朝井さんらしいなぁと面白く読みました。

<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
ミュージカル女優のファンクラブまとめ役という地位にしがみついている美知代。地味で冴えないむつ美。かつての栄光は見る影もない女優のつかさ。待ってたって、「革命」なんて起きないから。私の人生を動かしてくれるのは、誰?

誰もが「特別感」に焦がれていて、いつか自分に革命が起きるんじゃないかと待っている。
当然、劇的な革命なんてものは誰の身にも起きるわけじゃないし、待ってるばかりじゃダメだ。
大人になればそうじゃないことは頭ではわかる。
だけど、本当は大人になってもずっとどこかで期待しているんだと、これを読んで思い知らされました。
周りの目を気にしてかっこつけてては、革命なんて起こせない。自分の身を斬る痛みを恐れて、
それで革命だけを待ってるという卑怯をこの作品ではじわじわと描きます。
結局、革命は自身の心の中で起こるものなのでしょう。誰がうらやましいとか妬ましいとか、
自分の周りばかりに目が向いてては、自分は変われない。
自分の内側を勇気をもってきちんと覗きこめた時に、革命が起こせるのです。
それは自分が望むような劇的なものではないかもしれないけれど、
それまでの自分を明らかに変える一歩は、どんなに小さくても「革命」と呼べるのだと思いました。
連作3編からなる作品集ですけど、どれも少しずつ絡み合っていて、
それでいて全然違う視点の物語で面白く読みました。

え?朝井さん、宝塚ファンだったんですか?と動揺してしまうくらい、
ミュージカル女優の取り巻きの描写がすごかったです。
えらく詳細で、かつリアリティあるんですよ!!
ヅカファン、特にファンクラブには独特のルールや雰囲気があって、
作中の、ヅカのファンクラブをモデルにしたと思われる「ファミリア」の描写なんかすごかったです。
あの独特な空気感が伝わってきましたもん。
(私はファンクラブには入ったことないんですけどね。でも入り待ちとかしてそばで見てると、
色々すごいです!ほんとファミリアみたいなんですよ)
ちょっと調べたくらいで、ここまで書けないと思うんだけど。
劇団のインタビュー記事や、代役の場面とか宝塚関連のあれもこれも、
かじった程度の知識じゃないように感じたな。
身近にディープなファンでもいるのかな?ほんとびびった。

恐ろしいほど女性の心理を描いていて、女性じゃないと書けないでしょと思う描写もあるけど、
その一方で冷静に見つめる客観的視点もすごく感じて、
それは傍観者である朝井さんだからこその描写なのかな、とも思います。
だから、女性作家さんが書く主人公には同性である私は自分を重ねて読んだりするけど、
朝井さんが書くと、そう見られてるんだ、と気づかされる気がします。客観的に分析されるような。
あと最後のつかさの話は、朝井さん自身を重ねてるのかな、と思いました。
「何者」の時もそうでしたけど、周りに対して同様、自分自身にも客観的視点をお持ちのようで、
そこがすごいなと思います。
それにしても、恐ろしいほどの観察眼です。
朝井さんのそばに行ったら何見抜かれるかわからないから、近づきたくないです、ホント(笑)