駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『その手をにぎりたい』 柚木麻子

面白かったです!
私は就職氷河期だった世代でバブルを知らないんですが、バブルを経験した人の話を聞くたびに、
どれも昔流行ったトレンディドラマのような、嘘みたいなエピソードばかりで驚かされてました。
「バブル時代って…」って、私にはファンタジーな時代にすっごく興味津々で、この作品を手に取りました。

<内容紹介>(出版社HPより)
80年代。都内のOL・青子は、偶然入った鮨店で衝撃を受けた。そのお店「すし静」では、職人が握った鮨を掌から貰い受けて食べる。青子は、その味に次第にのめり込み、決して安くはないお店に自分が稼いだお金で通い続けたい、と一念発起する。お店の職人・一ノ瀬への秘めた思いも抱きながら、転職先を不動産会社に決めた青子だったが、到来したバブルの時代の波に翻弄されていく。一ノ瀬との恋は成就するのか?

読んでると、知人のエピソードやセリフと同じものが続々と出てきて、「やっぱバブルすげー」と感嘆。
本当に誰もがイケイケドンドンな、浮かれた時代だったんですねー。
お金も若さも特権も利用しなきゃ損!!というような、一見自由のようでいて、
どこか追い詰められたような妙な緊迫感をこの時代から感じました。
頂点に向けて上りつめていく切迫感にも似ているのかもしれませんね。
1年ごとの章立てで、バブル時代の10年間を描きます。
バブル時代をリアルに知らない作者さんだからでしょう、
当時の一番の流行ネタを、会話等にふんだんに織り交ぜてる描写が面白く、
一年ごとに微妙に色が違っていくのがよくわかりました。
(無理やり感もあるんですが、そこも微笑ましく読みました)
前に読んだバブルものは、いまいちぴんとこなくてあまり共感できなかったんですが、
今回は作者も同じバブル知らずなせいか、外から見るバブル時代が私にはとても読みやすかったです。

すし職人の一ノ瀬さんとの恋愛は、これまたファンタジーでしたねぇ。
高級鮨店ということで頻繁には通えないから、愛を育むのも難しく、
それでも10年思い続けるわけですからね。
純愛ではない、だけど一途な想いですよね。
青子の彼への想いは、実体のないバブル時代の中で、
すがるように自分の中の支えにしてきた聖域だったんでしょうね。
ラストの描写はちょっとドキドキしました。でもこの結末はあまり好みじゃなかったかな。
最後ちょっと生々しくなっちゃったんで、ファンタジーなままが良かったなぁ。
でも最後の描写などを書かれてるのを見ると、もうちょっとしたら柚木さんも
大人の恋愛ものとか描くようになっちゃったりするのかなーなんて思いました。
唯川恵さんや山本文緒さんみたいに…)
今の作風が読みやすくて好きなんで、個人的な好みとしては、今のままがいいんですけどね。

バブルの変化を象徴する青子が、時代に合わせてどんどん変わっていくのが面白かったです。
寿司屋に来るとちょっと自分を取り戻すんですよね。まさに「踊らされた時代」なのだなぁ。

毎回出てくるお鮨を食す場面は絶品でした!
高級お鮨には縁のない私なので、知識は全然ないのですが、
おいしそうな描写、お鮨の知識等、とても面白く読みました。
柚木さんの食べ物描写はさすが惹きつけるなぁ。
でも巻末の参考文献に「将太の寿司」があったのにはびっくり。
いや、このマンガは読んでないんですが、同じ作者の「ミスター味っ子」は愛読書だったもので。
味っ子はトンデモ料理だったのになーなんて(笑)

さすが柚木作品、サクサク読めてとても面白かったです(^^)/