駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『雨のなまえ』 窪美澄

おお、こんな救いのない話を窪さんが書くとは。
今までもどん底な人々を描いてきたけど、それをさらに落としますか…。
最後の話以外、どれも暗い読後感のお話たち。
「雨降って地固まる」なんて言いますが、最近の異常気象を物語に反映したのかどうか…この物語たちは、
雨降って、もろい部分がさらに崩れる、って感じです><

<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
妻の妊娠中、逃げるように浮気をする男。パート先のアルバイト学生に焦がれる中年の主婦。不釣り合いな美しい女と結婚したサラリーマン。幼なじみの少女の死を引きずり続ける中学教師。まだ小さな息子とふたりで生きることを決めた女。満たされない思い。逃げ出したくなるような現実。殺伐としたこの日常を生きるすべての人に―。いまエンタメ界最注目の著者が描く、ヒリヒリするほど生々しい五人の物語。

色んな夫婦を描くお話。
夫婦間の違和感って、雨降ったくらいじゃ均せないほどに深い溝なのだろうか。

とにかく「だいじょうぶ」という言葉がやたら目についたんですよね。
その言葉がなくても、自分自身に「だいじょうぶ」と言い聞かせているような主人公たちのお話です。
これ読んでると、「大丈夫」ってのは、他人の侵入を拒絶するような言葉に思えてきます。
そして自分自身に「大したことない」と言い聞かせている言葉にも。
自分はぎりぎり限界状態なのに、SOSが出せなくて、「大丈夫」と何でもない風に装ってみせる。
周りが助けに手を伸ばせられないほど厳しい状況じゃないはずのに、
いつからこんなに人に寄り掛かれない社会になっちゃったのかな。

夫婦間を「大丈夫」でやり過ごしていたら、いずれこんな風に色んなものが崩れていっちゃうんだろうな。
他人から身内になる夫婦間ですら「大丈夫」と殻作ってたら、
他人だらけの社会では拠り所すらなくなってしまうもの。
孤独を恐れるあまりに、人にもたれかかるのをためらってしまうんだろう。
力になってくれるべき人から見放されることほど、辛いものはないから。
それを「大丈夫」と自分や周りに言い聞かせて、なんとか社会の中で一人で立って、あぶれないようにする。
それは自立とは全然違うのに。
でもそういう面、私にもあるよなーと思って、これ読んでて切なくなりました…。

最後の最後で、ほろっと救いを見せてくれるのは、やはり窪作品だからなのかな。
社会からこぼれる人が出ないように、「お節介を焼く」「誰かを頼る」、
それが窪作品が言い続けていることのように思えます。

私の好きなタイプの窪作品ではなかったけど、でもやっぱ窪さんは読み応えあるし、読めてよかったです。