駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『源平六花撰』 奥山景布子

年末年始はこの源平本にじっくり浸っておりました。
初読み作家さんでしたが、文章が美しいと評判のようなので楽しみに読みました。
実際読みましたら本当に、美しく織られた上質な作品で、豊かな日本語が味わえました。
これがデビュー作とのことですが、手慣れた感があり、完成度は高いです。
最後の「後れ子」などは、古典の現代語訳のような文章でしたが、それがなぜか読みやすく、
情景と共にするするっと流れ込んできました。
(視点がころころ変わるのがちょっと読みにくかったですけどね…それもわざとかな?)

源平ものですが、歌舞伎が元ネタなんだそうです。
私、歌舞伎ものは全く無知だったんですが、それでも十分面白かったです。
歌舞伎版がいかにアレンジされたのかがわかれば、さらに楽しめたんでしょうけどねぇ。
平家物語」の中では、あまりメジャーではない部分に光を当てたお話たちで、
有名武将などはあまり出てこないのですけど、
女性の立場から見る裏の平家物語という感じで面白く読みました。

それでは少しずつ感想を…。

「常緑樹」
義経の母親である常盤御前(本書では常葉)がメインで、藤原長成との話。
常盤は源義朝の側室となり義経を生み、そののち平清盛の妾になり、そのあと長成に嫁ぐわけですが、
前者二人に比べると圧倒的に地味な長成。
常盤と長成がどんなだったかなんて想像つかなかったんですが、この話はそれを綺麗に埋めてくれました。
複雑な立場で揺らぐ常盤、貴族という立場で混乱の世を見る長成の二人が、
お互いを理解しながらじわじわと結びついていく様は非常に興味深かったし、なんだか救われた思いでした。

「啼く声に」
鹿ケ谷の陰謀が失敗に終わり、鬼界島に流された三人(俊寛・成経・康頼)と島の女性・千鳥のお話。
(この千鳥は歌舞伎のオリジナルキャラなのかな)
島育ちの千鳥が成経と懇ろになり、のちに京へ戻る成経とともに島を出るのですが、
ある意味悲劇のシンデレラストーリー。
(異文化世界で千鳥は苦労しまくり(^_^;)でもシンデレラストーリーって現実にも不幸だろうな…)
しかし不幸のようで、強さを残しもっていた千鳥は凛々しく、
そんな彼女から見た、流された三人の様子は興味深く読みました。

「平家蟹異聞」
那須与一で有名な、扇の的を持ったという松虫、その妹・鈴虫の姉妹の物語。
元ネタの歌舞伎の「平家蟹」は相当暗い話のようですが、
悲しみまみれであるこちらの話は、なぜか澄んだ美しさも併せ持ちます。
最後の場面はぞっとする情景のはずなのに、
切なさに加え、やり遂げた清々しさすら感じられる不思議な読後感でした。

二人静
解説によれば、歌舞伎の「義経千本桜」を元にしたお話だそう。
それを知ってる方には、タイトルがネタバレになるのかな。
私は知らなかったので、この展開に「こんなのありか!」と驚きました(笑)
タイトルにあるように、物語の主役は静御前ですが、影の主役は北条政子です。
政子さんが魅力的なお話は好きだなぁ。頼朝さんは得体のしれないとこがあるので、
その分、人間らしい政子さんがフォローしてる人物設定は私の理想です。
(人間臭い頼朝ってあまり見ないよなぁ…)
余談ですが、斉藤洋さんの児童書、『源平の風』も「義経千本桜」がリンクしてたのだなぁ、
とこれ読んで知って感心しました。こちらの本も大人でも読める児童書でおススメです。

「冥きより」
美少年・平敦盛を討ったのちの熊谷直実を見守る妻の話。
直実は、自分の子供と同じ年頃の敦盛を討ってしまったことで、世の中の無常観を感じ、
のちに出家した、といわれています。ただ敦盛を討ってから出家までかなり間があるので、
出家の理由はそればかりではないだろうなどと言われているのですが、
この話の直実は、敦盛を討ってからずーっと心の闇に囚われています。
そうやって引きずる直実が哀しく、それをもどかしく見守る妻の健気さもたまらず、物語に引き込まれました。

「後れ子」
源平合戦のちも生き残った、安徳天皇の母、建礼門院徳子のお話。
平家物語」では大原を訪れた後白河法皇に自らの人生を語り、全巻の幕引き役となっている、とのこと。
その場面はここでもラストシーンとして描かれます。
「後れ子」のタイトルがしみじみと響く徳子のセリフに、後白河同様に読者も打たれます。
平家の終焉を語りながら、目の前が淡い光に開けていくようなこの話は、ラストにふさわしい作品でした。


平家物語」は滅びの美学を描いているので、悲劇のエピソード満載です。
だからどの題材をとっても、基本、哀しい物語になるのですが、
最後にどれも光を感じられるのは奥山さんの巧さだと思います。
涙に暮れるラストではなく、どれも光や清々しさを感じられるのです。
女性の視点を軸にして描かれたこの短編には、悲劇のドロドロしたものを漉して、
哀しみだけを純粋に抜き出したような美しさがあります。
その分、血生臭い現実味は薄れますが、
それは軍記物を超えた美しさを持つ「平家物語」にふさわしいものだと思われました。
奥山さんの美しい語り口は、解説で「琵琶法師」と称されていましたが、まさにそんな感じ。
是非また源平物書いてくれないかなぁ。しかし、その前に歌舞伎の勉強が必要か…?(^_^;)

私は、文庫版を買って読んだのですが、文庫版は山田章博さんの美しい表紙絵で、
さらに歌舞伎を知らない私にもわかりやすい解説がついているので、
これから読まれる方には文庫版をおススメします。

余談。
去年NHKの番組表で、『にっぽんの芸能「源平の世界 舞踊“傾城知盛”」』という名前を見つけて、
飛びついて見た私。
ちょっとなによ、その意味不明にして、蠱惑的なネーミングは!!
と、どきどきハラハラしながら見てみますと……なんと、知盛出てきませんでした(笑)
有名な演目「船弁慶」をベースにした話だそうで、知盛と思った怨霊が遊女だったという…。
知盛ファンの私には肩すかしだったなぁ。
しかしこのままずっと源平を追いかけていたら、この先、
能や歌舞伎にまで突っ込んでしまうのかしら、私…と思ってしまった一件でした。
今のとこは、ちんぷんかんぷんすぎて、あまり手を出せそうにありませんけどね(^_^;)

というわけで、今年もこんな風に相変わらず源平狂いのまま、本を漁ることになりそうです~。