駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『明日の子供たち』 有川浩

児童福祉に関心があり題材に惹かれて、読みました。

さすが有川さん、読みやすく面白かったです。
児童養護施設という、ちょっと重くなりそうな題材を扱いながらも、
読みやすいエンタメ作品に仕上げた力量はさすが。
そしてエンタメ風味でありながらも、大事なメッセージはきちんと伝えてくれる。
県庁おもてなし課」もそうでしたけど、広く正しく知ってもらうための宣伝役として、
有川さんはいい仕事をなされますね。(「空飛ぶ広報室」も同じ系統ですね。未読ですがドラマは見ました)
児童養護施設については、概要ぐらいしか知らなかったので、現場での言葉の数々はとてもためになりました。
施設の子たちが、家族で暮らしていたら普通に体験できることがごっそり抜けていたり、
施設を出た後、親にちょっと聞けば済むようなことが困難だったり、
小さなことでは、着る期間が短い合服をあまり持ってないとか、
言われてみてなるほど、と思うことがたくさんありました。
楽ではないだろうとは思ってましたが、想像できないような不便さがあるのだなぁ、改めて思わされました。
最後の、全てを集約するようなカナちゃんのスピーチは本当に素敵でした。ちょっとうるっとしてしまいました。

経験を積んだ先生たちの言葉も頷かされるものが多かったですね。
「待てない」杏里ちゃんと待てない理由を探ろうと知る梨田先生のやりとりや、
猪俣先生と塀から脱走する子のやりとりなんかは、施設の子に限らず、親子間での理想の形でもありますよね。
ちゃんと相手の言い分を聞くことから会話は始まるんですよね。
会話は対等な立場じゃないとフェアじゃないですから。
親とか指導者の立場は、とかく決めつけがちで、上からの物言いになりますからねー。
普通の親子だとそれでもある程度問題なかったりするんですが、
複雑な事情を抱えた子などは、他人には思いもよらない地雷があったりするでしょうから、
慎重に言葉を選んで対応しなくちゃいけないんでしょうね。

「日だまり」のような場所は、施設の子に限らず、いろんな問題を抱える人たちに必要なものですよね。
不登校の子供とか、育児に悩むお母さんとか、一人暮らしの老人とか、同じような人が集まっていて、
目的もなくふらっと寄れる場所って、とてもありがたいものです。
確かに、選挙権のない子供を対象にしたそういう施設は、他に比べてあまり進歩がないのかもしれません。
(子育てをしてきた身としては、子育てのお母さんへの支援が少しずつ充実してきてるなーと思うのですが。
まだまだ十分とは言えませんけどね)
日本の社会保障費は児童に回らずに高齢者ばかりへいってますものね。
(子どもの貧困についても、最近よく問題になってますね)
本当に、明日の大人になる子どもたちのために、もっともっと支援が行き届くようになりますよう、
心から願います。

内容は面白くてとてもよかったのですが、引っかかった点が少し…。
有川さんの、自分の考えに少しの誤解もあたえまいとしてるかのような文章は、
ちょっと苦手に感じてしまいます。
これこれこういうわけだから「○○○~」と言ったとか、彼がこういうことをしたのには、こういう意味があるとか、
読者に考える余地を与えないような、隙間のない文章がちょっとくどく感じてしまったんですよねー。
念押しのように同じ文章が何度も繰り返されますし、
この内容でこのページ数はちょっと膨れ上がりすぎだと思います。
しかし、それは有川さんの強い正義感によるものなのでしょう。
小説の完成度というより、いかにこのメッセージを正しく伝えるかというのを重視すれば、
こういうことになるのかなとも思います。
私も小説としての云々より、児童養護施設について広く正しく知られる方が大事だなと思います。

そう言いながら…もう一つ引っかかった部分があって(^_^;)
最後の手紙ですね、こういう、現実とリンクさせるのが有川さんお好きなようですが、
「ストーリーセラー」といい、「県庁おもてなし課」といい、私は苦手で、正直「またか」と思ってしまいました…(^_^;)
でもまあ、現実の手紙を参考にした文章を載せるということで、
ここで描かれたことを、読者の中に現実として引っ張ってくるという意味で、効果はあるのかなとも思います。
そして有川先生に手紙を送った方は、勇気があって素晴らしいなと思います。
そしてその期待に応えてくれる有川先生も男前で素敵だな、と。(女性だけど心意気が男前ですよね・笑)
ただ作家描写をもう少し違ったものにしていただけるとよかったかなぁ…なんて(^^ゞ
どうしても自画自賛に見えてしまうので…(^_^;)

まあ、そんな不満点も少々ありましたが、とても面白く興味深く読みました。
ブコメ要素が薄めなので、それを期待するファンには肩すかしなところもあるかと思いますが、
その分幅広く読まれる作品になっていると思います。
これからも有川さんには、こういった大事な宣伝役を務めるような作品を書いていってほしいな、と思います。