駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『火花』 又吉直樹

お笑い芸人としての又吉さんに好印象を持っていたので、楽しみにしていた本。
面白く読みました(^^)/

又吉さんの文章が結構好みで驚きました。
ちょっとこねくり回した感じ、好きでしたねー。
そして芸人さんの本と言えば、エンタメ要素が強いというイメージだったので、
しっかり芥川賞らしい文学作品になっていたことにもびっくり。
純文学に分類されるとはいえ、多少は芸人らしいサービス精神があるのかなーと思ってたから、
お笑い要素をほぼ排除していたことに驚きました。(読者を笑わせるという意味のお笑い要素です)
私が普段、純文学作品をあまり読まないので、文芸としてのこの作品の良し悪しは判断できないのですが、
私がこれまで読んできた数少ない純文学と比べて、遜色なく思えました。

<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
お笑い芸人二人。奇想の天才である一方で人間味溢れる神谷、彼を師と慕う後輩徳永。笑いの真髄について議論しながら、それぞれの道を歩んでいる。神谷は徳永に「俺の伝記を書け」と命令した。彼らの人生はどう変転していくのか。人間存在の根本を見つめた真摯な筆致が感動を呼ぶ!「文學界」を史上初の大増刷に導いた話題作。


お笑いを題材にしているのに、全く笑うような話じゃない。
漫才師の、笑わせるセリフも哀愁と切なさにまみれてて、ちっとも笑わせる雰囲気じゃないし、笑えない。
しかしそれでいいと思います。
この中で書かれてるお笑いのセリフは、静粛な場面で口にして周りからスルーされる冗談のようなもので、
わざわざ取り上げて笑うようなものではないのでしょう。
(…と私は思っている。又吉さんがどう思って書いたかはわからないけど)

同じ芸人さんという括りでも、笑い方が全然違うと作中で書かれていたように、
芸人さんが笑いに向き合うのにもきっとさまざまなタイプがあるんだと思います。
そして作中の神谷先輩や徳永、そしてたぶん又吉さん自身も、
真面目すぎるくらいにお笑いについてがっつり向き合うタイプなんでしょうね。
そんな哲学じみた漫才師論はとても興味深く面白かったです。

神谷先輩の言葉はもっともらしく響いてくるけど、徳永も突っ込むように矛盾にまみれています。
考えて考えて考えすぎて、理論だけ一回りしてしまったような空回り感があるけれども、
本人たちの切迫感、必死さは十分に伝わってきました。
そうやって空回りながら、正解のない世界でもがいているんだろうな、芸人さんたちって。

今作は芸人さんが主役の話でしたけど、
表現力の高い文章で、芸人じゃない人にも響く言葉が数多くありました。
芸人が題材じゃない話ももっともっと書けそうな印象を受けたので、
もう少し他の話も読んでみたいなーと思いました。

又吉さん、お忙しいでしょうけど、次回作も期待してます。