駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『男役』 中山可穂

初読みの作家さん。なぜ選んだかと言えば、当然宝塚絡みです。
宝塚ファンとして、とても面白く読みました(^^)/

<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
トップになって二日目に舞台事故で亡くなった50年前の伝説の男役スター・扇乙矢。以後、大劇場の奈落に棲みつく宝塚の守護神ファントムさんとして語り継がれてきた。大劇場では月組トップスター如月すみれのサヨナラ公演の幕が開き、その新人公演の主役に大抜擢された永遠ひかるの前にあらわれた奇跡とは―。男役という稀有な芸への熱いオマージュを込めて中山可穂が情感豊かに描く、悲しく切ない恋愛幻想譚。

出だしから、「あ、これは間違いなくヅカファンによる文章だ」と思えてにまにましちゃいました。
多分、普通の人が見たら読み流しちゃうんだろうけど、
ヅカファンにはおなじみの言い回しが随所で見られるんですよね(^^)
パッションなんて言葉がするっと出てくるのは、ヅカファンならではだと思う…(^_^;)
あと、トップさんを神々しく描くとことか、もう完全にファン目線です(笑)
ヅカファンはそういうの慣れてるけど、普通の人が読んで引かないかちょっと心配…(^_^;)

この作品では、宝塚の新人公演やサヨナラ公演を描くんですが、
「中山さん、舞台裏をのぞいて書かれたのでは」と思えるほど、本当にリアリティがあって面白かったです。
宝塚では、暗黙の了解みたいなのや、宝塚ならではの特権(?)が多いんですよね。
で、ここに書かれてるのが本当か嘘かは置いておいて、出てくる話がどれもいかにもそれっぽいんですよ。
トップは下級生を直接叱ることはほとんどないとか、
(トップは組子たちの愛情と尊敬を一身に受け、精神的支柱とならねばならないから)
トップさんのためだけの、高級店のスペシャルメニューを届けてもらっているとか、
いかにもありそうな話がわんさか。
宝塚の「あるある」や「ありそうありそう」があちこちあふれてて、とても面白く読みました。

あと、実際のトップさんってそれぞれ、独特な個性や逸話があるんですが、
ここで出てくるトップさんは、そういうのを作家さんなりにミックスして作り上げてる感じなんですよね。
れが中山さんの理想のトップ像なのかなー、この話、○○さんっぽいなーとか、
色々想像を巡らせるのも楽しかったです。

ただこの作品の肝である、往年のトップであるファントムさんの存在はちょっと微妙。
舞台に棲みつく亡霊なんですが、あまりファンタジー感がなくて生々しいので、
その設定に入っていけず苦労しました。
勝手に、稽古場に長く残ってるトップOGさん(宝塚の卒業生)に置き換えて読んでましたね。
宝塚音楽学校で今も講師をやってる紫苑ゆうさんみたいな。
亡霊とはいえ、もう普通にしゃべってるので、現役生との絡みはその方がしっくりくる感じでした。

そして、出てくるエピソードはどれも面白く読んだんですが、小説としての作りは中途半端にも思えました。
一応、登場人物たちのことは、それぞれラストで一段落してるはずなのに、
読み終えて「え、ここで終わり?」と思ってしまうんですね。
それは、あとがきで作家本人が、色んなスピンオフを書きたいと言っているのをみてもわかるように、
書きながら脇役たちの背景が広がっていったようで、主要人物以外の書き残し部分が多く、
読み終えてもすっきりしないんですよね(^_^;)
まあ宝塚は歴史も長く、奥深い世界ですから、書けば書くほど妄想が広がっていっちゃったんでしょうねぇ。

作家さんのヅカ愛と妄想が溢れる一冊。
(中山さんは昔ファンで、今はもうずっと舞台は見られてないそうですが)
ヅカファン、もしくは宝塚に興味がある方は是非(^^)/