駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『山女日記』 湊かなえ

前回「豆の上に眠る」に続き、再びの湊さん。
読みやすかったし、面白かったです。
うーん、さすが巧い!短編7本、どの話もよかった!!

私はハイキング程度の山登りはしますが、登山というと未経験になります。
なんとなくイメージとして、長距離走に通じるものがあるのかなーという感じですね。
きつい思いをしながら頑張って、到達した先に、達成感や爽快感があるんだろうなぁ…と。
根性なしの私にはどちらも無理だと思ってしまうんですが…うう、ダメダメ><
ああ、でも富士山は一度登ってみたいなぁ。やはりお姿が神々しいですもん。


<内容紹介>
このまま結婚していいのだろうかーーその答えを出すため、「妙高山」で初めての登山をする百貨店勤めの律子。一緒に登る同僚の由美は仲人である部長と不倫中だ。由美の言動が何もかも気に入らない律子は、つい彼女に厳しく当たってしまう。/医者の妻である姉から「利尻山」に誘われた希美。翻訳家の仕事がうまくいかず、親の脛をかじる希美は、雨の登山中、ずっと姉から見下されているという思いが拭えない。/「トンガリロ」トレッキングツアーに参加した帽子デザイナーの柚月。前にきたときは、吉田くんとの自由旅行だった。彼と結婚するつもりだったのに、どうして、今、私は一人なんだろうか……。
真面目に、正直に、懸命に生きてきた。私の人生はこんなはずではなかったのに……。誰にも言えない「思い」を抱え、一歩一歩、山を登る女たちは、やがて自分なりの小さな光を見いだしていく。女性の心理を丁寧に描き込み、共感と感動を呼ぶ連作長篇。


山に登ることで人は成長する…わけではないと思う。
でも得るものは必ずあるんだろうな。
この本では、主人公たちが山に登る中で、日常のもやもやから一歩踏み出そうとしていく様が描かれます。
それは登山のおかげというより、山で人と接することで、
他人から、自分の見えない新たな一面を知っていくことに繋がってゆくのでしょう。
それが登山だと、初対面でも日常より接しやすいし(共通の趣味同士の場は会話しやすいと思う)、
開放的な空間が自分自身を出しやすくなるのだと思います。
また山を無心になって登っていくという行為が、余計なことをそぎ落として、
自己対話の場ともなっていくんでしょうね。(…と、登山をしない私が想像で書いてみる)
だから、山に登ることで大なり小なり、毎回新たな発見があるのだろうな。
だって、今作のように、初めての人も久しぶりの人も何度目かの人も、
ちゃんと新たな自分を見つけることができているんだから。
例えば私は、海外に行って異文化に触れるたびに、自分の思い込みを客観的に見ることができ、
毎回新鮮な発見があるのだけど、
今作の彼らも他人という異文化に触れることで、新たな己を知っていくように思えました。

山に登って、自然の大きさに触れ、自分の小ささを知り、他人と触れ、己を知っていく。
登山ってそういう感じなのかなーとこれを読んで思いました。

湊さんにしては毒が薄いといわれているようだけど、私は結構黒かったと思いますよ?
殺人なんかはないけど、人間の黒い部分はそこそこ出てたように思えたけれど。
湊作品をあまり読んでない私だからそう感じたのかな?
リアリティある人間心理描写はさすがで、出てくる人たちは心の中で言いたい放題でしたが、
「そこまでは言わないけど、でも気持ちはわからないでもない」となんとなく共感しておりました(^^ゞ

ただ、とてもよくできた短編集だと思うのですが、ちょっと難点もあって、
主人公たちの書き分けがイマイチ上手くいってないように思えたんですね。
人間だれしも自分可愛さというのはありますが、この作品では特にそこが強調されていて、
それぞれ境遇も何もかも違う語り手たちのはずなのに、
「自分の価値観が正しい」という点でみんな同じように見えちゃったんですよね。
主人公たちが他人のダメ出しばかりしてるんですもん…。
それこそが湊カラーなのかもしれませんが…。
短編集ながら、それぞれの話が少しずつ絡み合ってる構成になっているのですが、
主人公たちにあまりカラーの違いがないので、繋がりを検証しようとして、ちょっと混乱してしまいました。
まあそれぞれ独立した話なので、あまり問題はないのですが。
そこが唯一の不満点でした。

山ガール山ガールと作中でも流行言葉として使ってるけど、タイトルは「山女」と言ってますね。
湊さんは流行る前からの登山経験者かな?登山描写もリアルですしね。
ちょっとそんなこだわりを感じました(笑)

ニュージーランドに行ったことあるので、「トンガリロ」の話は興味深かったな。
私が行ったのは南島メインの観光だったからトンガリロ(北島)も全然知りませんでしたけど(^^ゞ
でも自然がすごく素敵な国でしたので、また行くことができたなら、
今度はトレッキングもやってみたいなーと思ったのでした。
「トンガリロ」のお話自体はちょっと苦い話でしたけどね。

今まで読んでこなかった湊作品…もうちょっと読んでみようかな。