駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『笑うハーレキン』 道尾秀介

久しぶりの道尾作品。
ミステリ作家さんと思っていたのですが、もう、そう呼んじゃいけないのかな?
丁寧な人間描写に引き込まれました。
エンタメ作品としても面白かったですー。がっつりハマって読んじゃいました。

<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
経営していた会社も家族も失い、川辺の空き地に住みついた家具職人・東口。仲間と肩を寄せ合い、日銭を嫁ぐ生活。そこへ飛び込んでくる、謎の女・奈々恵。川底の哀しい人影。そして、奇妙な修理依頼と、迫りくる危険―!たくらみとエールに満ちた、エンターテインメント長篇。


(少々ネタバレ気味の感想。未読の方、ご注意ください。)


ホームレスを経験したことないので、この作品のホームレスの主人公に、ぴったり共感できるかと言えば、
「わからない」としか言いようがないのだけど、でもすごくリアリティを感じたんですよねー。
彼のような立場だったら私もきっとそう思うかもしれない、と、内面描写の巧みさに引き込まれながら読みました。
ホームレス同士でいながら、どこかで相手を下に見てしまうプライドがあったり、
こんな立場でもプライドはあるんだと強がりながらも、即物的なものに屈してしまったり、
そんな主人公の葛藤はぐっと胸を掴まれました。
ホームレスという立場じゃなくても、人は日々そんな葛藤を繰り返しているのだもの。

どこか得体のしれない奈々恵の存在には翻弄されましたが、
「疫病神」の正体についてはなんとなく気づいていました。
最後に明かされる本当の東口、ビデオの真相なんかまではわからなかったですけどね。
「ハーレキン=道化師」ということですが、道化と言えば太宰の「人間失格」を思い出したなぁ。
人は誰も仮面をかぶっている。本当の自分を隠している。ずっとずっと人は嘘を抱えているんでしょう。
でもそれが「笑顔」になればいい。ああ、素敵だ。

最後の大仕事の依頼のあたりは、ちょっと設定や展開が雑な感じも受けたのですが、
彼らが新たなステップを踏むためにはあのくらいの事件がないとダメだったのかもしれませんよね。
ちょっと都合よすぎる展開ではありましたが、清々しく終わるラストが心地よかったので、これで満足です。
スカがいい味出してたな。
最後の逃走の時、なんか私勘違いして、トラックに「飛べ!」って東口さんが言ったの、スカに対してかと思って
「おお、そうきたか!」と一瞬喜んでしまいました(^_^;)さすがにそれはないか…。

東口が居酒屋で恨みを晴らすシーンなんか特にグッときましたよー。
東口の落ち着きぶりが不思議で、人を殺すというには変わった心情だ、
そういう覚悟ができたらそんな感じになるのかな?と首をかしげながら読んでたら、
そうきましたか、ってあとで納得。そちらの覚悟でしたか。
そんな読者を翻弄する巧みさも心憎いです。

でも子供が死ぬのがちょっと引っかかりました。「あ、まただ」って思いましたもん。
道尾作品って、どうしていつも子供がひどい目に合うんだろう…。
子どもに対しての仕打ちが一番「やりきれない」からかしら?

ホームレスたちの関係にもすごく引きつけられました。
みんな優しいんですよ。でもそれは縋るような優しさにも見えるんですね。
孤独な立場を打ち消すように、誰かに関わることで自分をなんとか保っているような危うい均衡。
失うものは何もないというくらいの立場だからこそ、わずかな仲間、わずかなつながり、
わずかな財産がものすごく大事になるんでしょう。
蜘蛛の糸をたぐるような慎重さで、相手を思いやっている彼らに切なさを感じました。

思いついたまま、とりとめなく感想を書いてしまいました。読みにくくてすみません><
初期の頃のどんでん返しを期待するファンからは評価が厳しかったりするようですが、
私はこの作品、すごく好きでした。