駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『ポイズンドーター・ホーリーマザー』 湊かなえ

面白かったです。さすが湊さん、するする読めてしまう。
けど、直木賞候補というのはどうだろう、と思ってしまいました。
他にもっと力作があるのに…。ちょっと書き込みが薄くて、奥深さが足りない気がしました。
でも辻村さんの「鍵のない~」の時もこんな感じだったな…。
少しモヤモヤする方が、直木賞向きなのかな??


<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
女優の藤吉弓香は、故郷で開催される同窓会の誘いを断った。母親に会いたくないのだ。中学生の頃から、自分を思うようにコントロールしようとする母親が原因の頭痛に悩まされてきた。同じ苦しみを抱えた親友からの説得もあって悩んだのだが…。そんな折、「毒親」をテーマにしたトーク番組への出演依頼が届く(「ポイズンドーター」)。呆然、驚愕、爽快、感動―さまざまに感情を揺さぶられる圧巻の傑作集!


(以下は、ネタバレありの感想です。未読の方は、読まれませんように!!)


「マイディアレスト」
姉妹の差の話。
姉というのは親にとって最初の子供で、親も神経質になるしとかく真面目になりがちなイメージです。
次女になると、母親も慣れてくるし、次女も姉を見てるから、下の子は要領がいい。
まさにそんな典型的な姉妹を極端にして描いたような今作。
今回は長女目線でしたけど、次女には次女の不満がきっとあって、普通、その不満をお互いにぶつけあって、
きょうだいげんかという形で発散していくんだろうけど、
このお姉ちゃんは溜め込んじゃって、最後爆発しちゃうんですよね…。
「蚤取りをしていました」って…もうホラーだわ><

「ベストフレンド」
女の嫉妬より怖いのは、男の嫉妬、ってことでしょうかね…(^_^;)
でも途中の女性主人公の、言ってることと思ってることのギャップがすごい様は、湊かなえさんらしさ全開。
こんなの読んでたら人間不信に陥るじゃないか!(苦笑)
でもこの作品では女性同士、お互い不穏な空気は読み取りあってたわけですよね。
で、異性の嫉妬には気づかない。
日頃から女性が、いかに同性に対して敏感に神経張ってるかを物語っている気がします…。
互いを分かりあうのも同性、そして張り合う相手も同性なんでしょうね…。

「罪深き女」
思い込みが強い女の話。人は誰しも自分が主人公で人生送ってますけど、これまた極端な女性が登場します。
妄想力たくましく、「物語を必要とする女」とでも申しましょうか。
でも母親の闇が一番深そう…。
これでまた正幸も嘘の証言してたら怖いなって思ったんですが、そこまで複雑な話ではなかったようですね。

「優しい人」
これはいろいろ刺さりましたね。
「優しい」というのは、結構難儀な言葉だなーと思わされました。
基本、困っているところに手を伸ばしてもらって、感謝するような類の言葉だと思うんですが、
現実では、無難に褒めるときにも使うし、その人が、自己主張ができなくて黙って受け入れたり、
遠慮した時にも使われてしまいます。
もしくは作中で書かれているように、「みんなに優しい=誰にも関心がない」となってしまったり。
「優しい」という耳触りのいい言葉で片づけられてしまう、曖昧なところをナイフで抉ったような作品。巧い。


「ポイズンドーター」
ホーリーマザー」
ラスト二編は、対になるお話。
どっちが悪いというわけではなく、ただお互いにすれちがっていた、ということ。
親子は、素直な愛情だけで結ばれているわけではないから、厄介なんだろうな。
「身内」というだけあって、親子互いに、自分自身に相手を侵入させている部分があって、
よくも悪くも依存し合っています。
そしてそれが過剰になると、反抗として現れたり、支配欲になったりするのでしょう。
母親の支配が強すぎると、子どもの自我が圧迫され「毒親」と言われるのでしょうし、
子の反発が強ければ親は手痛い攻撃を受け、「ポイズンドーター」ともなり得るのでしょう。
しかし子はやがて親となり、立場を変えていく中で、思いも変わっていくのか、
理穂のように皮肉な連鎖は続いていくのですね。
親は「正しくあらねばならない」と思いがちなせいで、
自分が受けて嫌だったことを無意識にわが子にしてしまったりするんですよね…。
この二編は母寄りでも娘寄りでもない気がします。どっちもどっちということでしょうね。


「優しい人」が一番よくて、「マイディアレスト」と「ベストフレンド」を面白く読みました。
毒っ気があって湊さんらしい作品集といえると思います。