駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

さらさら流る 柚木麻子

面白く読みました。
リベンジポルノがテーマなので、楽しんで読む本ではなかったですが、
柚木さんの巧さを堪能できて、するする読めました。

<内容紹介>
あの人の中には、淀んだ流れがあった――。
28歳の井出菫は、かつて恋人に撮影を許した裸の写真が、ネットにアップされていることを偶然発見する。
恋人の名は光晴といった。
光晴はおどけたりして仲間内では明るく振る舞うものの、どこかそれに無理を感じさせる、
ミステリアスな危うさを持っていた。しかし、なぜ6年も経って、この写真が出回るのか。
菫は友人の協力も借りて調べながら、光晴との付き合いを思い起こす。
飲み会の帰りに渋谷から暗渠をたどって帰った夜が初めて意識した時だったな……。
菫の懊悩と不安を追いかけながら、魂の再生を問う感動長編。


東京の下にはたくさんの川が流れている、というのは、以前から聞いたことがありました。
なので東京へ行く時、羽田からモノレールに乗って浜松に向かうたびに、
川の出口の向こうにビルが立ち並ぶ様子を見て、なるほどーと思っていました。
(って、見当違いなこと言ってたらすみません。)
ちょうどこれを読んでいるときも、東京へ行ったので、東京住まいではないですが、
なんだか身近に感じながら、暗渠のくだりを読んでいました。

暗渠、川…それは東京だけでなく、人の心にも、人生にも言えること。
みせたくないものとして蓋をしてしまったり、本人も気づかぬうちに奥底で流れていたり、
物語に巧く絡ませ描かれていたと思います。

主人公の菫は、共感するには、思考も家庭環境も一般的な主人公ではない気がしましたが、
それでも一生懸命に、降りかかった困難に立ち向かう姿は魅力的で、物語に引き込まれました。
自分が見てる自分の姿というのは、実はとてもとらえにくくて、かといって他人の目から見える自分も、
そのものではないといえます。
親友・百合との関係から、お互いを通して、自分を発見していく様はとても興味深かったです。
それは鏡を通して、自分を見る行為に近いのかもしれません。
自分自身を把握するってなんて難しいんだろうと思いました。

そしてフィルターを通した自分が、ネットを介してどんどん他人ごとになっていく様も
空恐ろしいと思いながら読みました。
ネット社会の、自分と直接つながりのないものに対しての、あまりのぞんざいさはえげつなくさえあります。
リベンジポルノに限らず、炎上など、ネットの匿名性は、
発した本人の想像を遙かに超える威力をもって、個人を攻撃するのですよね。
それにまっすぐに対抗していこうとする菫は立派でした。

それに比べて、光晴よ…(涙)
故意ではなく、画像を流失させた元彼氏ですが、彼は同情の余地なし、って感じでした。
途中、彼からの視点も描かれ、物語に絡んできましたので、
菫同様、彼も彼なりの着地点を見つけるのだと思っていたら、宙ぶらりんで終わってしまって、残念でした。
このままだと、二人のすれ違いが、家庭環境の違いからくる決裂で終わってしまう気が…。
菫は幸福な家庭で育ったから最後は幸せで、光晴は義理の母とうまくいかなかったから、人生も失敗した、
みたいに終わっちゃいますよね?
せめて、義理の母との新しい関係を見せるとか、少し希望がほしかったなぁ。
(最後それっぽいものはあったけど、ちゃんと描かれてなかったような…)
でなきゃ、彼視点の話をいれずに、完全に悪役になってもらうとかね。
なんだか光晴の存在もストーリーも中途半端で、菫の話に比べると濁された感じありましたね。

自分の中の土台をきちんと持ってる人は強いです。
これを読みながら、情報も、自分という人間の切り口も多種多様である現代で、
振り回されず生きていく難しさを痛感しつつ、
どんな困難も、土台さえきちんと保てたら、乗り切れるのだとも教えてもらいました。

柚木さんの、軽い読み物も好きですが、こういうじっとり重いのも好きですね。