駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『どこかでベートーヴェン』 中山七里

ううーん、好きなシリーズなんですが、今回のはちょっと不満かな。
相変わらず文章は読みやすくて、するする読めたんですが、別の意味で読みにくかったです。
冒頭は前作「いつまでもショパン」の続きになってますが、本編は岬洋介の学生時代のお話。
岬先生のピアノの腕が別次元になるくらい、あまり程度の高くない音楽科に、
彼が編入したところから話は始まります。
そのクラスメイトが揃いも揃って低俗でしてねぇ…(^_^;)
天才を前にして妬んだり、恨んだりはあるでしょうけど、それにしてもそれが延々と続くし、
家に帰ればお父さんが息子に対してあり得ないほど辛辣だし、もう読んでて気分が悪かったです(-_-)
岬先生の才能を妬む人もそりゃいるだろうけど、クラスみんなであの態度ってどうなの?
ちょっとひどすぎますよね。


<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
ニュースでかつての級友・岬洋介の名を聞いた鷹村亮は、高校時代に起きた殺人事件のことを思い出す。岐阜県立加茂北高校音楽科の面々は、九月に行われる発表会に向け、夏休みも校内での練習に励んでいた。しかし、豪雨によって土砂崩れが発生し、一同は校内に閉じ込められてしまう。そんななか、校舎を抜け出したクラスの問題児・岩倉が何者かに殺害された。警察に疑いをかけられた岬は、素人探偵さながら、自らの嫌疑を晴らすため独自に調査を開始する。


今回も一作目同様、ミステリは申し訳程度で、音楽科の高校生の学園物って感じです。
そして学生時代の妙な自意識の高さと、自分の無力さを責任転嫁する厭らしさを存分に描いてます…。
最後の方だけでもいいので、学園物ならもっと爽やかさがほしかったよぅ。
今までも明るい内容ではなかったし、嫌な人も出てきたけど、
彼らなりに強い思いがあってこそだから物語に引き込まれたのに、今回のは嫌悪感ばかりでした…。
あと集中豪雨の描写もあって、現実で大きな被害が起こった中での読書でしたので、
フィクションとして無責任に読める感じじゃなかったです…(>_<)それも読みづらさの一因でしたね。

ミステリはと言えば…、事件発生から容疑者特定の流れが雑だったし、そのトリックもなんか適当感が…。
でも、そこまではまあありだと思ったのだけど、
あの検証の流れは無理やり感が半端なくて、受け入れづらかったです。
あのシチュエーションを用意しないとダメなの??
相変わらず素晴らしかったのは、音楽描写。
今回はベートヴェンなので「月光」と「悲愴」でした。
しかしそこに至るまでにムカムカしてるので、今回は岬先生の演奏にどっぷりとつかれなかったです…(涙)。

最後の一文はちょっと驚き。そうきましたか。これからも彼は登場するのかしら?

ということで、好きなシリーズなだけに辛口な感想になってしまいました><。
この話は続きがあるそうで、「もう一度ベートーヴェン」として続編が出されるようです。
次作はもう少し岬先生に光が見える話になってるといいなあ。
次作を楽しみに待ちたいと思います(^^)

『やがて海へと届く』 彩瀬まる

はあー、やっぱり彩瀬さんはすごい。
読みながら、その言葉の針に何度もちくちくと胸を刺されました。
彩瀬さんの文章は、自分のあまり目を向けたくない部分を差し出されるような感じがします。
そして彼女の文章を読み進めることは、
ふさぎかけてる自分の傷をじくじくと再びいじくるような痛みを伴うのです。
それでも、読むのをやめられない。

前作『桜の下で待っている』は、いつもの不穏さが控えめになって少し物足りなく感じたけど、
今作は非常に彩瀬さんらしい作品になっていてファンとしては満足でした。


<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
すみれが消息を絶ったあの日から三年。真奈の働くホテルのダイニングバーに現れた、親友のかつての恋人、遠野敦。彼はすみれと住んでいた部屋を引き払い、彼女の荷物を処分しようと思う、と言い出す。地震の前日、すみれは遠野くんに「最近忙しかったから、ちょっと息抜きに出かけてくるね」と伝えたらしい。そして、そのまま行方がわからなくなった―親友を亡き人として扱う遠野を許せず反発する真奈は、どれだけ時が経っても自分だけは暗い死の淵を彷徨う彼女と繋がっていたいと、悼み悲しみ続けるが―。死者の不在を祈るように埋めていく、喪失と再生の物語。


さて今作は東日本大震災を題材に、被災者に真正面から向かい合っています。
それについて述べるのは、震災の被害を受けていない私には難しいです。
でも、数多くの人が震災の傷を負った中で、被災者の方が再び歩き出すまでの、
幾通りもの道のりの中の一つが描かれているのではないかと思えました。
間違いなく言えるのは、今作を書かれるにあたって、彩瀬さんはかなり覚悟をもって、
そして遺族の気持ちになり切ろうとして、考えに考え抜いて、慎重に描かれたであろうということ。
震災から立ち直ろうとしていく姿を描くのに、ただの感動ものに昇華するのではなく、
人の中に渦巻く様々な感情を、いいも悪いも一つずつ丁寧にすくい上げていきます。

冒険だな、と思ったのは、震災の死者の視点の話を入れたこと。
これは賛否両論あるかも。
でも、私にはそれは祈りに似た想いで描かれているようで、突然生を奪われた方々が、
無念や未練をどうにか昇華して、安らかに旅立てるようにとの願いが込められていると思いました。

すみれに対する、残された真奈たちの心情は、震災に限らず、
身近な大切な人を失った思いにも重ねられると思います。
そういう大きな喪失を引きずってしまう心情を、冷静に分析されて、丁寧に描かれているのが心に残ります。
喪失という辛い思いを抱えながらも、大切な人を忘れてしまう辛さにも胸を痛める。
どっちつかずな矛盾を抱えて、人は葛藤をするのですね。
失う痛みだけではない複雑な感情を、この本を読むことで知りました。
大切な人に大事な言葉は、きちんと伝えておかねばなりません。
「愛してる」「ありがとう」など、日常でそのまま伝えるのは照れくさいけれど、
そういう想いを持って日々大切に生きていけたらな、と思いました。

これを読む前に、彩瀬さんの被災を描かれた『暗い夜、星を数えて─3.11被災鉄道からの脱出』を、
ちゃんと読んでおきたかったなぁ…。
そしたらもっと物語に近づけたのかも。そこがちょっと残念でした。





博多座、観劇してきました!

行ってきました、博多座の「エリザベート」。
公演が始まる前にチケットを一枚買っていたのですが、それを見に行ったらどうしてももう一度見たくなり、チケットを追加して、もう一回見てきました!!
チケット代が安くないので、二度目の観劇はかなり悩んですが、行ってよかったです(涙)

Wキャストの多い公演ですので、私が見に行った時の配役を書いておきますね。

1回目
トート 井上芳雄
フランツ 田代万里生
ルドルフ 古川雄大
ルキーニ 山崎育三郎
少年ルドルフ 大内天

2回目
トート 城田優
フランツ 田代万里生
ルドルフ 古川雄大
ルキーニ 成河
少年ルドルフ 加藤憲史郎



宝塚での初演「エリザベート」を生観劇した私としては、花ちゃん(花總まり)のエリザをもう一度見たいと思っていたので、それが叶って感激でした。
あれから18年たちますが、少女シシィはあの頃と変わらずホント可愛かったです。観劇していた若い女性が、「子どもが演じていると思った」と言ってたくらいです。
色んな人が演じたエリザベートを見てきたけれど、初演を演じたということでやはり私の中でイメージが定着してしまっているのか、やっぱエリザベートは花ちゃんだな、と思いました。
宝塚の男役さんが演じる場合もありますが、やっぱり娘役さんが演じる可憐さが私は好きです。
例えば「風と共に去りぬ」のスカーレットは、一人で凛々しく立つ女性なので、男役さんが演じる方が好きなんです。エリザも強い女性ですから、一人で凛々しく立つ演技もありだと思いますが、エリザはトートやフランツとの葛藤の中で、そこに引きずられそうになる華奢さを持ちつつ、でもそれを振り払って一人で立とうとする可憐な凛々しさこそ、私の理想なんですよね。(それも初演のイメージが強いからかな?)
花ちゃんのエリザは、奔放さも気丈さも、脆さも弱さも、どの姿も魅力的で、共感しづらい行動を取っても、それがエリザだ、と納得できるものでした。花ちゃんの説得力のある演技はさすがです!

トート閣下は二人とも、私にとっては初観劇でしたので、インパクトが大きかったですね。
どちらのトートも素晴らしくて、甲乙つけがたい魅力でした。

井上トートは、とにかく歌がすごくて、聴いたことない声で自在に歌うので、もうただただ圧倒されておりました。彼の生歌が聞けたのは本当に至福でした。
そんな、人とは思えぬ不思議な声をはじめ、とにかく死神感すごかったです。
なんか底知れぬ不穏なオーラがあって、人ならざる姿はまさに異界の人でした。
何考えてるのか見えてこないのも、死神っぽさを増していましたね。そういう意味では初演の一路さんにも近いトートだったかも。
そしてそのぞくぞくするようなドSっぷりがたまらなかったです><(ムチ姿は本当にお似合いでした)
私が井上君を見るのは、なんと東宝初演エリザのルドルフ以来なんです。
ルドルフにふさわしく、ノーブルなイメージだった彼のトートなんて、想像つかないなぁと思っていたのですが、まあ、びっくりするくらい立派な帝王っぷりで驚きました。

城田トートは、ビジュアルが最強に素晴らしい。あれこそ正真正銘のトートだ、と思えるほどに違和感のないお姿。最初に「トート役、城田優」と聞いただけでお似合いだなと思っていましたが、実際に見るとあの長身が舞台に映えて、本当に悶絶ものでした…。お芝居も井上君とはまた違っていて、「死神がお姫様に恋をする」という少女マンガをみてるようなときめきがありました。エリザを追いかける俺様トートが本当にきゅんとしてしまうくらいハマっていて、歌も感情豊かでわかりやすいトートだったと思います。

井上トートはまさに「死の輪舞」で、城田トートは「愛の輪舞」を見せてくれたと思います。どちらも違うトートで、それがよかった。そして、どちらも本当に通って何度も見たくなるほど素敵なトートでした><

フランツもよかったです~。
フランツ役者は年齢を重ねていく演技が大変だと思うのですが、今回も途中で役者変わった?と思うくらいに立派に演じ分けていました。
そして田代さん演じるフランツは、マザコンフランツや頼りないフランツなどいろんなフランツがある中で、私の好きな優しいフランツでした(涙)
確かにゾフィーに押されてしまう情けない部分はあるんだけど、エリザベートへの誠実さもちゃんと見えて、自分の立場をちゃんと自覚しながらその中でもがく、健気なフランツでした。
そんな理性的なフランツだからこそ、最後、<悪夢>の場面でトートにフルボッコにされて、取り乱しまくってる姿がより際立って、気の毒でたまりませんでした…><

ルキーニも、二人の演技が全然違うので面白かったです。
最初、山崎さんのを見たのですが、何より歌が素晴らしいなぁと聞き惚れておりました。華があって、出てくると注目を引くし、何やらかすかわからないトリッキーさもありました。
ただ、狂言回し役とはいえ、物語の登場人物の一人でもあり、最後にはその舞台に引きずり込まれていくはずなのですが、山崎ルキーニは最後まで物語の外で、話を楽しんでいた感じがあり、違和感がありました。ルキーニというよりは、物語をかき回して喜んでる妖精パックっぽいというか。そう言う意味で物足りなさも感じました。
ルキーニという役としては、成河さんの方がルキーニだったと思います。舞台で一人、存在が異色なんですよねー。なんか汚いんですよ(いい意味ですよ!)。姿勢も悪いし、扮装して舞台に絡んでも、別物が紛れ込んでる感がぬぐえない。山崎さんのきれいなルキーニを先に見てる方としては、その汚さが違和感だったんですが、狂気を抱えてる様は確かに伝わってきて、「きっとこれこそがルキーニなんだ」と思えました。最後、暗殺の場面で狂言回しから物語へ入っていくその姿にぞくぞくしました。

「宮廷でただ一人の男」と言われるゾフィーは、香寿さんの方がハマっていたように思います。ちゃんと皇后らしくて、どしんと存在感がありました。歌も素晴らしくて、香寿さんの生歌を聴けて感激でした。涼風さんのゾフィーは、怖い(笑)。ちょっとヒステリー気味で、皇后らしさは香寿さんに比べると劣るかな、と。でもですね、その、国を思う以上に(笑)フランツを想う、危うげな必死さが伝わってきたせいか、最後の<ゾフィーの死>で泣けたのは、涼風さんの方でした~(涙)

ルドルフは、両日、古川君。京本君も見たかったけど、博多座では前半しか出演されなかったので、見損ねました…。
ルドルフで重要なのは「儚さと美しさだ」と思ってる私にとって、古川くんはまごうことなきルドルフでした!演技が少し弱くも感じたのですが、ルドルフなのでそれもよし。なにより、城田トートとの「闇が広がる」が素晴らしかったです。声のハーモニーも合っていたし、身長のバランスもよかった。ゾクゾクくる闇広が見れて幸せでした~><

少年ルドルフは、大内君が素晴らしかった。最初の亡霊の場面から目をひかれました。あの天使のような歌声は何!?と。見た目も麗しくて、ちゃんと古川ルドルフへ繋がっていく感じもよかった。(ここのつながりは私の中では重要。初演エリザはこれが数少ない難点だった)
2012年のエリザでは、加藤清史郎君の少年ルドルフが印象的だったのですが、今回は弟、憲史郎君。お兄ちゃんによく似てかわいかったです(^^)

はあ、まだまだ書き足りないけど、長くなったので、この辺にしておきます…(^_^;)
正直、何度見ても話が分からんのがこの「エリザベート」。
でもその分、見るたびにいろんな解釈ができるので、何度見ても飽きません。
DVD欲しいけど、こうやって生で見ちゃったら、映像じゃ物足りないだろうなぁ。




『ホテルジューシー』 坂木司

こちらは先日読んだ「シンデレラ・ティース」と対になった本です。
「シンデレラ・ティース」で少し出ていた、姉御肌っぽい女の子が主人公で、
「シンデレラ・ティース」とは物語的にも少し雰囲気を変えたお話でした。
沖縄が舞台なんですが、私自身、少し前に沖縄に旅行に行ってきたので、
沖縄描写で「わかるわかる」という部分があってより面白く読みました。
変な味のコーラがあったり、年輩の方がすごく元気だったり、あとちょっと異国な雰囲気があったりしますよね。
(そんなせいか、お店の人に話しかけられてつい海外旅行気分で、thank youと言ってしまった私です…(恥))
そんな沖縄のいいとこ、そうじゃないとこをさらっと描いていく日常ミステリです。


<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
大家族の長女に生まれた天下無敵のしっかり娘ヒロちゃん。ところがバイトにやってきた那覇のゲストハウス・ホテルジューシーはいつもと相当勝手が違う。昼夜二重人格のオーナー(代理)や、沖縄的テーゲー(アバウト)を体現するような双子の老ハウスキーパーなど規格外の職場仲間、さらにはワケありのお客さんたちにも翻弄されながら、ヒロちゃんの夏は過ぎてゆく―南風が運ぶ青春成長ミステリ。


「シンデレラ・ティース」同様に雰囲気は軽め。でも、日常のミステリのその真相はちょっと重めでした。
友人のサキちゃんは、割とスムーズに職場に慣れ、怪しいお客さんともめでたしめでたしで、
すっきり終わるお話なのに、この本の主役のヒロちゃんはトラブル続きでかなりハードに頑張ってます。
大家族の長女でしっかりもののヒロちゃんみたいに、
できる人にはできる分だけ仕事が与えられてしまうんだろうか。
私がヒロちゃんと同じ立場だったら、絶対挫折してるよ…(-_-)

沖縄は「てーげー」文化で、良くも悪くもいい加減のようです。
ほどほどに、無理をせず、って感じでしょうか。
この本の中でも、外からの人が沖縄に来て良くも悪くも自由にやってますが、
それに対して沖縄の人が大らかに受け流す感じがありました。
沖縄という土地自体が特殊な背景を持つことから、
外部からの圧力を受け流すような独特な文化が育ったのかなぁ。
そうすると、お堅い正義感を持つヒロちゃんにとっては、なかなか居心地の悪い場所になるはずなんですが、
さすが沖縄のてーげーな空気の方が上だったようで、
そんなヒロちゃんもだんだん角が取れたように馴染んでいきます。

ゆるゆるでほのぼのだった「シンデレラ・ティース」とは少し趣を変え、
こちらは少し毒や影を持った話になっています。
もやもやが残る感じの話も多いですしね。
ただ「シンデレラ・ティース」に比べてシリアスさが増した分、その他のリアリティのなさが目立って、
少しちぐはぐな印象になってしまった気がします。
オーナー代理の不思議感とか、ヒロちゃんの正義感とか、お客さんとの結末とか、
少しずつしっくりこないものも感じました…。
なので、どっちかといえば、ファンタジー感たっぷりな「シンデレラ・ティース」の方が
読みやすくて好みだったかな。

とはいえ、こちらも面白く読みました。坂木作品、もう少し読んでいこうと思います(^^)




『シンデレラ・ティース』 坂木司

実は私、坂木さんの作品って「和菓子のアン」シリーズしか読んでないんですよね。
そんな話をしたら、知人が文庫本を貸してくれました。
リンクしているという二冊です。今回はそのうちの一冊。

まず、表紙にやられました!
あれは反則です。ハムスター愛好家の私としては、もうそれだけで「完敗」(笑)…と、冗談はさておき、
内容は、なるほど「和菓子のアン」の作者さんだ、と素直に思える作風でした。
覆面作家さんだそうですが、きっと女性ですよね?
お仕事ミステリでありながら、少女マンガのようなときめきも込められたお話でした(^^)/


<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
大学二年の夏、サキは母親の計略に引っかかり、大っ嫌いな歯医者で受付のアルバイトをすることになってしまう。個性豊かで、患者に対し優しく接するクリニックのスタッフに次第にとけ込んでいくサキだったが、クリニックに持ち込まれるのは、虫歯だけではなく、患者さんの心に隠された大事な秘密もあって…。サキの忘れられない夏が始まった。


まあ、そんなときめきエピソードも含めて、ツッコミどころはいろいろあったんですが、
日常の謎解きと、四谷さんとの恋の進展を楽しく読めたので満足です。
まあ、ツッコミどころはね、診察券を「メンバーズカード」と呼ぶスポーツクラブのような歯医者って、とか、
専門書の一夜漬けでどんだけ知識つけてんですか、とか、その年の差はちょっと引いた、とか、
雑談から第二のカルテを作るとか私が患者ならちょっと勘弁、とか思っちゃったんですけどね。
でもお話自体が全体的にほのぼのしていて、リアリティさがない方が楽しめるお話だったので問題なしです(^^)/

そんなささいなツッコミどころ以上に、スタッフたちが真摯に患者さんに向き合ってくれる様子にじんときました。
こんなに病院にかかれたら幸せですよね。
病院選びって本当に難しくて、当たり外れが大きいよな、とよく思うので。

若かりし頃、接客をしていた時は、ただただ「クレーマーに当たりませんように」とだけ思っていたんですが、
理由もなく文句言いたいだけのクレーマーなんて一握りかもしれませんよね。
お客さんにはお客さんの事情があるのに、それを無視して、
「嫌な人に当たったなぁ」と思いながら平謝りだけするのは、お客さんに対しても失礼ですよね。
クレーマー対応の上手な上司は、まずお客さんの言い分を完全に聞き届けてから、丁寧に対応されていました。
店側にとって困ったお客さんはどこでもいると思いますが、お客さんもきっと何かに困っているのでしょうね。
この本に出てくる困ったお客さんたちのように。
そういう視点を持てると接客も少し怖くなくなるような気がします。
それでも、外で怒鳴ってる人を見ると、もっと大人な対応をしてほしいなぁと思うのですが(^_^;)

日ごろ、歯医者には定期検診を含め、わりと頻繁に通っているので、すごく身近な舞台で興味深かったです。
咲ちゃんと四谷さんのこの先が気になるけど、続編はないのかな。残念。

『幹事のアッコちゃん』 柚木麻子

またまた柚木さんの本です。
実は二作目がイマイチだったので、もう追いかけるの辞めようかなと思ってたんですが、
今作はとうとう全編アッコさんが出てくるお話だと知って、読むことにしました!

読んでよかったです。
今までのとは少し趣を変えていて、それもよかった。
自分の道を突き進むかのように見えたアッコさんにもちゃんと内省するところがあって、
去話からは今のアッコさんを作るパーツが見えてきたようで面白かったです。
三智子の成長が、これまたびっくりするほどすごい。アッコさん効果はここまで影響を及ぼすのか…?
(いや、三智子自身がすごいのだ。私には無理だ!)

<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
背中をバシッと叩いて導いてくれる、アッコさん節、次々とサク裂!妙に冷めている男性新入社員に、忘年会プロデュースの極意を…(「幹事のアッコちゃん」)。敵意をもってやって来た取材記者に、前向きに仕事に取り組む姿を見せ…(「アンチ・アッコちゃん」)。時間の使い方が下手な“永遠の部下”澤田三智子を、平日の習い事に強制参加させて…(「ケイコのアッコちゃん」)。スパイス絶妙のアドバイスで3人は変わるのか?そして「祭りとアッコちゃん」ではアッコ女史にも一大転機が!?突破の大人気シリーズ第3弾。

四つのお話があるのですが、それがどれも違う趣きのお話なんですよね。
三作目にして、さらに大きく広がった、そのバリエーションがすごい。

「幹事のアッコちゃん 」は、今までのパターン。
主人公が男性になったのが目新しくて、このさとり世代っぷりがなかなか難儀で面白かったです。
実際、部下にいたら苦労しそうですけどね…(^_^;)

「アンチ・アッコちゃん」、アッコさん否定派が現れたかと思ったら、アッコさんは風邪でダウン。
そんな弱ったアッコさんは、なぜかやすやすと相手に自分の中へ踏み込ませていくのです…。
(それも作戦の内?)
ここでは昔のアッコさんが垣間見え、今のアッコさんを形作る礎に様なものが見えてきます。
赤井さんのアッコさん式解決策の失敗談が面白かったです。
ファンタジーのような理想の話を書きながら、こんな風に、そうそうすんなりうまくいくもんじゃない、
ってのをさらっと交えちゃう感覚が毒っぽくて、いかにも柚木さんな感じがしました(笑)

「ケイコのアッコちゃん」では、これまで上からな物言いをしがちなアッコさんが、
誰かの下につくという立場が逆転した様子が見られます。
でも子供の下についたって、アッコさんはアッコさんで変わりなくて、そこがいいなーと思ったのでした。
アッコさんはお節介から人を強引に引っ張り込むところがあるから、立場が上からに見えがちだったんだけど、
これを読むと、アッコさんはアッコさんの信じる道をただまっすぐ行ってるだけ、というのがよくわかります。
だって教わる姿勢もまっすぐなんですもん。

「祭りとアッコちゃん」、なんとここでは同士だと思ってた三智子とアッコさんの立場が、対立してしまいます。
だけど対立が起こった時に、それを決めるのは勝敗だけじゃなく、ウィンウィンという解決法もあるわけですね。
社会で働いていれば、仕事に私情は挟めないし、意に添わない仕事もあったりで、
そんな時は、自分を曲げたり抑え込んだりしなければいけないような気がしていました。
でもその問題を丁寧に洗い出せば、両者が納得できる道もあるんだ、
となんか希望のようなものを感じましたよ。
M&Aなんて言葉が飛び交うシビアな現場では、自分を殺してこその仕事、みたいな感覚があったからかな?
現実的か否かはおいておいて、こういう理想はちゃんと持っておくべきだよなー。

と、どのお話もとても面白く読みました。
ただこうやって三冊も読んできて、特に今回これだけアッコさんのいろんな面が描かれたにも関わらず、
なぜか私の中でアッコさん像が固まりません…。
アッコさんというだけであの「和田さん」を想像してしまうからいけないのかなぁ(^^ゞ
でも面白く読みました!
今作で完結してもおかしくない雰囲気だったけど、まだ続くのかなぁ?どうなんだろう?
まだまだ続きを読みたいシリーズです。


『義経の周囲』 大佛次郎

はは、難読作家名としてしか知らなかった大佛(おさらぎ)次郎さんの本を読むことになろうとは、
自分でも思わなかったなぁ。源平熱恐るべし。
こんなマニアックな本を紹介して、誰が記事を読むのかと思ったけど、
まあ自分の備忘録のために書き残します(^^ゞ

<内容紹介>(amazonサイトより)
藤原秀衡は「人間として鎌倉の頼朝も及ばぬほどに大きく、寛大で、北方の巨人なり王者の名に値した(中略)。人間として純粋に、義経に同情を持ち成人させ立派にしてから世間に送り還したのである」(「秀衡」より) 義経が正史に足跡を記すのはわずかに二年。華麗なる戦績と、最期の悲劇性ゆえに、多くの伝説・物語を生んだ、その生涯にまつわる風物、人間を重厚に語る、珠玉の歴史エッセイ。(解説頁・高橋克彦


なんというか、ジャンプコミックとかで出してる、ファンブックを読んでる感じと言いましょうか。(変な例え…)
すでに知ってるエピソードも読み返して、何度も感動に浸ったり、
現在(といっても昭和40年くらい)の跡地に作者が「行ってみた」といい、
その記述を見て、さらに平安末期へと思いを馳せたり、
義経の二次創作本の紹介をみて、そのバラエティ豊かぶりを喜んだり、
とまさにファンしか楽しめないマニアックな本です!(笑)
決して義経入門編にはならないでしょうね~。これ読んで、源平に興味持ってくれるとは思えない。
ってか、ファンしか最後まで読めないと思う(笑)

私は源平に関する史料をちゃんと読んでないので、もう『平家物語』の引用があるだけで喜べる人間です。
ですので、『源平盛衰記』『吾妻鏡』『玉葉』等の引用を大変興味深く読みました。
ただ引用が、史料も創作もごちゃまぜだったり、能や歌舞伎からも引っ張ってきたりして、
史実がどうであったかは特に追求するスタンスじゃないみたいですね(笑)
小説家さんだから、小説ネタの資料集めっぽい感じですかね。

義経って、あれだけの知名度でありながら、本人についての記述って少ないんですよね。
内容紹介文にもあるように、正史に名を残すのは源平合戦の辺りの二年だけ。
鞍馬いったとことか、平泉にいったとことか、詳細は不明。
だから、この本のように、義経の周囲の人々を描くことで、
義経について検証していくということになるのでしょうね。
以前読んだ領家高子さんの創作ものの、「九郎判官」(義経のこと)も本人は全く出ずに、
周りについて語るという体裁をとっていました。
変わった構成だなと思ったけど、義経を語ろうとすると、そうなってしまうのもわかる気がしました。

義経は、悲劇のヒーローとして大衆から長く愛されました。
そうして本来の義経からどんどん離れていったであろう創作がたくさん作られました。
そんな中で一番興味深かったのは、「義経地獄破」!!
徳川時代に作られた浄瑠璃なんだそうですが、地獄に落ちた古今の武将たちが、
地獄を楽土にしようと地獄征伐の軍を起こすんだそうです。
その面々というのが、悪源太義平、九郎判官、木曽義仲新田義貞楠木正成能登守教経、平高時、
無官大夫敦盛、相馬将門、織田信長
更には、田村将軍、頼光と四天王、弁慶、悪七兵衛景清、熊坂長範など、敵味方なく集結するようです。
もうこのごちゃまぜ感がすごい!!
こんなすごい面々の中から総大将に推されたのが、義経というわけです。
それくらい民衆たちのヒーロー的存在であったということなんですね。
そして義経総帥の下に、小松内府平重盛が副将となって搦め手の大将だなんて、
もう誰かこれを現代版に書き直してください!!と心の底から思いました。
(秋からアニメ化の「ドリフターズ」も楽しみにしてます(^^)義経出てくんないかなー?)

この本では大佛さんが、史料を引用して真面目に語る部分もあれば、
憶測推測を思いつくままに語る部分もあったりで、そのあまりに自由な語り口に笑ってしまうこともしばしば。
(作中引用)
「死んだのは義経三十一の時である。今日なら大学を出て会社に就職して七、八年目、やっと結婚してアパートの中に家庭を持ったところである。」
いや、違います。そんな現代感覚で語るのは間違ってます(笑)何て自由すぎるんだ大佛さんっ!

そんな、史実とかけ離れた本を紹介したり、自由に語ったりしてるこの本ですが、
その中で「これは!」という記録もありました。
実は、平泉の金色堂須弥壇内には、
藤原清衡、基衡、秀衡のミイラ化した遺体と泰衡の首級が納められているんですよ。
それを最近知ってすごいなーっと思ってたんですが、
なんと大佛さん、昭和二十五年に行われた学術調査に参加して、秀衡さんのご遺体を見たというのです!
そこでの様子が詳細に描かれていて、とても興味深かったです。
本当に平泉は楽土を目指していたのだろうな。

文庫解説で奥州藤原氏に肩入れして力説してる高橋克彦さんも面白かったです。
明記はしてないけど、おそらくNHK大河「義経」であろう番組に文句言いたい放題。
でも、確かに平泉の文化は都に負けないほど素晴らしかっただろうと思うので、田舎扱いは癪に障るでしょうね。

と、気づけば長くなったなぁ。ますます誰が読むのやら…(^_^;)
でも源平本探しはまだまだ続きます…。