駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

宙組『風と共に去りぬ』 凰稀かなめ

ヅカ視聴日記。
久しぶりのヅカ記事…。へへ。

テルさん(凰稀かなめ)主演。
役替わりがあった公演ですが、私が見たのはNHKの録画で、Aパターンです。

久しぶりに見たなぁ。「懐かしいな、風共」と思いながら見てました。
古典的お芝居もある意味新鮮(笑)。
なんかザ・宝塚な感じですね。

脇役さんまでもがみんな美形で…。さすが銀英伝をやった組だ…。
民衆のお芝居からも目が離せませんでした~。

最初に配役を見て想像した以上に、とてもよくみなさん役にハマっていて、とても見ごたえがありました。
配役を見たときに、そこそこハマってるな、とは思ったのですが、
テルさんのバトラーはちょっと物足りなそうに思えたし、
でかいまぁくん(朝夏まなと)のスカーレットはどうだろうと心配したのですが、いやいや、いらぬ心配でした。

テルさん、素敵なバトラーでした~><
線が細くて、スカーレットと並ぶと輪っかドレスのまぁ君に隠れてしまいそうな細さでしたが、
お芝居がちゃんと太い!ダンディ!
テルさんの、役の心情がちゃんと届くお芝居が好きだ~。
スカーレットを激しく責める場面も、バトラーの胸の痛さがちゃんと届くから、バトラーを責める気になれない。
テルさんのバトラー、予想以上にお似合いでした。

スカーレット役。まぁくんの陽性がうまく役に作用していて、華があってキュートなスカーレットでした。
勝ち気でわがままなのに、嫌な女にならないのは、
スカーレットが自分の気持ちにただただ率直なだけだとわかるからでしょう。
アシュレへの一途さも必死なんですよねー。
アシュレがメラニーを想ってスカーレットに頼みごとをしてるのに、
そこはスルーしてアシュレの優しい言葉だけに目を輝かせるスカーレット。
アシュレのメラニーへの愛情には目をそらして、アシュレへの想いだけにしがみつく、
どこかかわいそうなスカーレットなんですね。
それでも嘆くだけの女性じゃなくて、生き生きとした生気に満ち、凛とした強さが光ってるのがいいです(^^)
熱演も素晴らしく、タラの場面や、最後バトラーに泣きく場面では泣かされました><
男役さんのスカーレットって好きです。テルさんのスカーレットも見てみたいなぁ。

バトラーとスカーレット。古来からの価値観に振り回されない似た者同士の二人。
そこにバトラーは惚れたのだけど、スカーレットは王子様に憧れる女の子でしたもんね。
そこはお子様だったってことで、二人が成就しない一因となっていくわけですね。
二人、好きな人を一途に思い続けるところもよく似てる。
しかしずっと待っていると言いながら、最後スカーレットから離れていくバトラー。
予想以上に嫉妬に狂う自分や、スカーレットを死なせかけた自分を許せなかったのでしょうね。
そんな苦悩も丁寧に表現してくれるから、今回はすごくバトラーに感情移入してしまいました…。

アシュレ役のともちん(悠未ひろ)。
何かと悪役が多いともちんですが、悪い役をやりながらもいつも人の好さがにじみ出ていたので、
今回のアシュレは合うんじゃないかと思ってたのですが、やはりよかったですねぇ。
あんなにガタイがでかいのに、ちゃんと女性にすがるような弱さもちゃんと出ていて、アシュレでした。
アシュレはなかなかつかみどころのない男で、共感を得にくい役じゃないかと思うんですが(苦笑)、
ともちんのアシュレは素直でまっすぐなアシュレでしたね。
単純だからこその浅さも、アシュレらしかったかと思います。
役としてのアシュレには魅力を感じないのですが、今回はアシュレはかわいくて、よかったと思います(^^)

せーこさん(純矢ちとせ)のスカーレットⅡもいいなぁ。
男役のまぁくんに負けない対等な力強さがありながら、ちゃんと娘役らしい柔らかさと繊細さもあって、
まぁくんスカーレットの中にある理想のスカーレットという感じが出ていて、
二人のやり取りはとても楽しかったです。

メラニー素敵!どこを切ってもやさしさしかないという感じのメラニー役を、
みりおん(実咲凜音)が見事表現していました><
きれいなものしか見えない浅いやさしさではなく、全てを見抜いた上での、悟りのような優しさでしたね。
自分がアシュレとくっついたのも、アシュレとスカーレットを想ってだったんじゃないかと勘ぐってしまうほどの、
仏のメラニーでした。
(スカーレットの気持ちも、アシュレの弱さもわかった上での結婚だったのかな。
夢見るアシュレと現実派のスカーレットがくっついてもうまくいきそうじゃないですしね)

きたさん(緒月遠麻)のベルも良かったです。意外と女役もいけるんだなぁ。
蔑まれるような商売をしながらも、自分の中に一本芯が通ってる様が良く表れていました。
メラニーとの絡みが泣けました。

すっしーさん(寿つかさ)、大好き。
ミード博士の場面になると、突然リアルなお芝居になるような感じがあって、なんか別格でした。
言葉一つ芝居一つにすごく説得力があって、重みがありました。

マミー、すごい。汝鳥伶さん、すごい。
スカーレットのこともバトラーのこともよくわかってて、それでいて押しつけがましくない優しさで、
二人を見守っているんですよね。
それがちゃんとでていて、お芝居に泣かされました。

古い作品で、昔ながらの古臭い演出に苦笑してしまうところもあるのですが、
出てくる曲は一緒に口ずさんでしまうくらい染み込んでいるし、やはり名作だなぁと思いました。
面白かったです。

余談。今回NHKで見たので、スカステとは違う撮り方もなんか新鮮で面白かったです。
カメラアングルだけで、舞台がドラマチックになってました。
(シンプルにお芝居が見れるスカステアングルも好きです(^_^))

『ポイズンドーター・ホーリーマザー』 湊かなえ

面白かったです。さすが湊さん、するする読めてしまう。
けど、直木賞候補というのはどうだろう、と思ってしまいました。
他にもっと力作があるのに…。ちょっと書き込みが薄くて、奥深さが足りない気がしました。
でも辻村さんの「鍵のない~」の時もこんな感じだったな…。
少しモヤモヤする方が、直木賞向きなのかな??


<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
女優の藤吉弓香は、故郷で開催される同窓会の誘いを断った。母親に会いたくないのだ。中学生の頃から、自分を思うようにコントロールしようとする母親が原因の頭痛に悩まされてきた。同じ苦しみを抱えた親友からの説得もあって悩んだのだが…。そんな折、「毒親」をテーマにしたトーク番組への出演依頼が届く(「ポイズンドーター」)。呆然、驚愕、爽快、感動―さまざまに感情を揺さぶられる圧巻の傑作集!


(以下は、ネタバレありの感想です。未読の方は、読まれませんように!!)


「マイディアレスト」
姉妹の差の話。
姉というのは親にとって最初の子供で、親も神経質になるしとかく真面目になりがちなイメージです。
次女になると、母親も慣れてくるし、次女も姉を見てるから、下の子は要領がいい。
まさにそんな典型的な姉妹を極端にして描いたような今作。
今回は長女目線でしたけど、次女には次女の不満がきっとあって、普通、その不満をお互いにぶつけあって、
きょうだいげんかという形で発散していくんだろうけど、
このお姉ちゃんは溜め込んじゃって、最後爆発しちゃうんですよね…。
「蚤取りをしていました」って…もうホラーだわ><

「ベストフレンド」
女の嫉妬より怖いのは、男の嫉妬、ってことでしょうかね…(^_^;)
でも途中の女性主人公の、言ってることと思ってることのギャップがすごい様は、湊かなえさんらしさ全開。
こんなの読んでたら人間不信に陥るじゃないか!(苦笑)
でもこの作品では女性同士、お互い不穏な空気は読み取りあってたわけですよね。
で、異性の嫉妬には気づかない。
日頃から女性が、いかに同性に対して敏感に神経張ってるかを物語っている気がします…。
互いを分かりあうのも同性、そして張り合う相手も同性なんでしょうね…。

「罪深き女」
思い込みが強い女の話。人は誰しも自分が主人公で人生送ってますけど、これまた極端な女性が登場します。
妄想力たくましく、「物語を必要とする女」とでも申しましょうか。
でも母親の闇が一番深そう…。
これでまた正幸も嘘の証言してたら怖いなって思ったんですが、そこまで複雑な話ではなかったようですね。

「優しい人」
これはいろいろ刺さりましたね。
「優しい」というのは、結構難儀な言葉だなーと思わされました。
基本、困っているところに手を伸ばしてもらって、感謝するような類の言葉だと思うんですが、
現実では、無難に褒めるときにも使うし、その人が、自己主張ができなくて黙って受け入れたり、
遠慮した時にも使われてしまいます。
もしくは作中で書かれているように、「みんなに優しい=誰にも関心がない」となってしまったり。
「優しい」という耳触りのいい言葉で片づけられてしまう、曖昧なところをナイフで抉ったような作品。巧い。


「ポイズンドーター」
ホーリーマザー」
ラスト二編は、対になるお話。
どっちが悪いというわけではなく、ただお互いにすれちがっていた、ということ。
親子は、素直な愛情だけで結ばれているわけではないから、厄介なんだろうな。
「身内」というだけあって、親子互いに、自分自身に相手を侵入させている部分があって、
よくも悪くも依存し合っています。
そしてそれが過剰になると、反抗として現れたり、支配欲になったりするのでしょう。
母親の支配が強すぎると、子どもの自我が圧迫され「毒親」と言われるのでしょうし、
子の反発が強ければ親は手痛い攻撃を受け、「ポイズンドーター」ともなり得るのでしょう。
しかし子はやがて親となり、立場を変えていく中で、思いも変わっていくのか、
理穂のように皮肉な連鎖は続いていくのですね。
親は「正しくあらねばならない」と思いがちなせいで、
自分が受けて嫌だったことを無意識にわが子にしてしまったりするんですよね…。
この二編は母寄りでも娘寄りでもない気がします。どっちもどっちということでしょうね。


「優しい人」が一番よくて、「マイディアレスト」と「ベストフレンド」を面白く読みました。
毒っ気があって湊さんらしい作品集といえると思います。


『ラストナイト』 薬丸岳

ちょっとご無沙汰だった薬丸さん。評判よさそうなので借りてみました。
するする読みやすいのは、相変わらず。
たびたび繰り返される同じ場面を少々くどく感じつつも、真相が気になって、読み進めていきました。
一章の終わりから、ハッピーエンドにはならないだろうことを仄めかしているから、まあ覚悟はしてましたが、
切ない終わり方でしたね…。
普通の幸せを望んでいるだけの人が、ほんの些細なことで人生を奪われてしまう…。
世の中には理不尽が溢れていて、今作の彼に対し、どうにかならなかったのかともどかしく思うと同時に、
自分も他人事ではないかもと恐ろしくなります…。


<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
菊池正弘が営む居酒屋「菊屋」に、古い友人で刑務所を出所したばかりの片桐達夫が現れた。かつてこの店で傷害事件を起こしてから、自身の妻とも離婚し、32年もの間に何度も犯罪に手を染めてきた男だ。獣のような雰囲気は人を怯えさせ、刺青に隠された表情からは本心が全くつかめない―。著者新境地!魂を震わす衝撃のミステリー。

最初、異形の男が出てきて、不穏な感じから始まるのですが、
語り手を変えていくうちに、彼自身の姿が少しずつ明らかになっていきます。
すると、思ったより真っ当そうな彼がどうして、
今みたいな投げやりな人生を送っているのだろうと不思議になってきて、続きが気になっていくんですね。
ミステリの常套手段ですけど、薬丸さん巧いですねぇ。
今の彼から離れた人の視点から話が始まり、やがて実際の彼の行動を見ている人の視点に移っていくと、
彼自身が何か意図があって行動しているのが見えてきます。
彼の目的とは…?と思って読んでいくと、最終章では意外な人物が現れるのです。




(以下、ネタバレありの感想です。未読の方は読まれませんように)




読み終えて、もっと他の道があったんじゃないかなぁと切なくなるんですが、
片桐はきっと不器用で純粋すぎたゆえに、こういう道しか選べなかったのでしょうね。
誰に頼ることもなく、迷惑をかけることなく、一人で蹴りをつけたかった。
ただ唯一、事件のきっかけとなった菊池にだけは少し甘えを見せて、店に通ったんでしょう。
唯一の癒しであろう、焼きそばを求める彼が切ない…。

真相が分かった後で、刺青というのが最初気になったんですよね。
顔を隠すためって言ったって、それ以上に不便だろう、だったら整形の方がいいじゃないか、と思ったんです。
でも実際整形だったら、彼の覚悟の強さが軽くなってしまいそうだな、と。
復讐のためとはいえ、どこか小狡さが出てしまいそう。
途中で復讐をあきらめるのもあり、とか。(本当は彼がそういう道を選べたらよかったんですけどね)
やはり顔面刺青の方が、絶対に後戻りできないという、復讐への強い覚悟と壮絶さがにじみ出るなぁと。
などといろいろ考えて、やっぱり片桐にはこの道しか選べなかったのだろうと思いました。
彼は生きる希望は持っていなかったので、想いを遂げたラストは満足だったのかなぁ。
彼に生きててほしかった読者としてはもやもやしてしまうんですが、
最後に、娘の理解という形での希望が見えたことで、少しそのもやもやが晴れる気がしました。

あと物語に対してじゃないんですけど、少し気になったのは、同じ会話を繰り返すこと。
章が変わって視点が変わると、同じ場面の同じ会話を繰り返すんですね。
別視点から語る割には、そんな目新しいこと言ってないし、これ繰り返す意味あるのかな、と思ったんですよね。
ただ何度も同じ場面をたどりつつ、それぞれの人の、違う話を描いていくわけなので、混乱しないようにと、
作者なりの親切なんだろうか、と思いました。
最後の方などは同じ会話の繰り返しで、どこの場面かわかりやすかったですし。
どっちがよかったのかな?

それとタイトルがありふれすぎてて、いただけない。
せっかくの力作なのに、こんな埋もれてしまいそうなタイトルではもったいない気がします。
改題の前の「檻から出た蝉」の方でよかったんじゃないかな?

そんな不満も少々ありましたが、読みやすくて面白かったです。
色々考えさせられる薬丸作品は、読み応えがあっていいですね。
薬丸さんの、「Aではない君と」が気になりつつなんか手を伸ばしかねてるのですが、やっぱ読んでみようかな?

30-DELUXの『新版 国性爺合戦』を観てきました!

舞台に行ってきました。
去年も行った30-DELUXの、「新版 国性爺合戦」(こくせんやかっせん)です。
(ちなみに去年観たのは「新版 義経千本桜」)
タイトルの名前は見たことあったけど、なんだっけと思ったんですが、
近松門左衛門作の人形浄瑠璃が元ネタだということです。
最初は名前も読めませんでしたよ…。
でも、そんな全く分からない私でも、お芝居の前に楽しい前説をやってくれて、
そこであらすじを説明してくれるので、わかりやすく物語に入ることができました!

ちなみにWikiによれば…

江戸時代初期、中国人を父に、日本人を母に持ち、台湾を拠点に明朝の復興運動を行った鄭成功(国性爺、史実は国姓爺)を題材にとり、これを脚色。結末を含め、史実とは異なる展開となっている。

ということです。
なんかタイトルから勝手に、百姓の爺さんたちが一揆する話かと思ってたら全然違いましたよ…(苦笑)

主演は佐藤アツヒロくん。和藤内(鄭成功がモデル)役。元・光GENJIですね。
私、思いっきり光GENJI世代なんですが、当時はあまりハマらなかったんですよね(^_^;)
でも、顔はあっくんが一番きれいだなーと思ってました。
その後、時々テレビで姿を見ることがあり、変わらず可愛いなーと思ってたんですが、
今回、生で見てみて、相変わらずのきれいさとかわいさにびっくり。私と同世代とは思えない!
若々しい青年役ですけど、もうその通りに見えました。
だから、アツヒロくんより年下の緒月遠麻さんが、今回母親役をされているのですが、
それでも違和感なかったですね。(緒月さんも雰囲気が落ち着いてますからね)

さて、アツヒロくんの演技、熱かったですねー。
結構クールな人だという印象だったので、今回の熱演はすごく驚かされました。
最後の、主人公の、苦しい葛藤場面の熱演には呑み込まれそうになるほどでしたよ。
ご本人もかなり入れ込んで演じられたのでしょう、
カーテンコールの時に、しばらく呆然とされていたのも印象的でした。
アツヒロくんが舞台で頑張ってるのは知ってましたが、その姿を実際に見て、なんかとても安心しました。
これからも応援してます。

元・宝塚では、緒月遠麻さんと大湖せしるさんが出演されてました。
緒月さんは和藤内の母親・渚役なんですが、こういう懐の広い役はお似合いですねぇ。
大湖さんは錦祥女という将軍・甘輝の妻役。
綺麗な衣装のお后様で、同じ妻役でも普段着を着た緒月さんとは対照的。
人が良くてお茶目で温かい感じの渚役は緒月さんによくハマっていて、
錦祥女の気高く美しい様は、大湖さんによくお似合いでした。
カーテンコールの時に大湖さんが膝を折って、宝塚の娘役のお辞儀をしていたのが印象的でした。

あと女性で印象的だったのは、和藤内の妻・小むつ役の加藤雅美さん。
元アイドルということですが、なかなか突き抜けた演技で見てて気持ちよかったです。
啖呵きる姿がかっこいい!かっこいい女性には憧れます(^^)/

前回「義経千本桜」でスタイリッシュな弁慶役をされていた馬場良馬さんが、将軍・甘輝役。
今回もお素敵でした(^^)/
スタイル良くて舞台映えしますし、殺陣も素敵なんです。
出番が割とあとからなので、待ちわびちゃいましたよ。

お話は元ネタが頭に入ってないので、日本から家族で明に乗り込んでいって戦仕掛けるって…って、
いまいちイメージがわかなかったのですが、お芝居がわかりやすくて、雰囲気が楽しかったので、
引き込まれるように見ました。
30─DELUXらしく殺陣がきれいで、ゲームのような効果音と合わせた動きで、
まさにリアル無双が目の前で繰り広げられているようでした。
生舞台とは思えぬ、バトルアニメっぽいスピーディでかっこいい演出はまさに感嘆もの!
特に清水順二さんや馬場さんの殺陣に見とれてました。かっこいーーー><
虎役の森大さんの、人とは思えぬ動きもすごかったです。まさに虎でしたよ…。すっげ。

古典ものでは「なぜ突然そこで死ぬ?」みたいな、現代感覚では共感しづらい見せ場がよくあります。
今回も、原作では有名なシーンであろう、錦祥女が紅を流す場面からの流れが、
まさにツッコミを入れたくなる感じなんですが、なんでしょう、うまく処理されてましたねぇ。
周りの人のセリフでそれっぽく説得力を持たせ、
こうなってしまうのは仕方ないと思わせる流れが上手いな、と思いました。
なので、そこからラストに流れ込んでいく展開に置いていかれずに済みましたし、
そのあとの更なる超展開に呑み込まれました。
ラストに向けての怒涛の流れは本当に圧巻でした。
こういう風に古典に触れられるって素敵ですね。

よい舞台が見れました。はあ、満足(^^)




『スティグマータ』 近藤史恵

面白かったです。
サクリファイス」に始まるロードレースもののシリーズで、今回は5冊目になります。
読みながら、なんなんだ、このシリーズの抜群の安定感は、と密かに感心しておりました。
近藤さんの文章って、すーっと入ってくるんですよね。
ロードレースという、私にとって興味も関心もなかった世界にススーッと引き込んで、
専門用語の説明もそんなにしないのに、素人でもわかりやすくこの複雑なスポーツを描いてくれる。
さらっと読めちゃうけど、それって実はかなりすごいことだと思います。

あと選手目線の文章がすごい。
近藤さん、ロードレーサーではないはずなのに、この経験者のような描写はなにゆえ?
実際の選手が「そうそう」と同意するかどうかはわからないけど、
選手ならではな表現がふんだんにあって驚かされます。取材力がすごいのかな?
そういう描写も、この物語にがっつり引き込んでくれる一要素ですね。

以前は「興味も関心もなかった」ロードレースですが、このシリーズと出会ったことでその世界を知り、
さらには「弱虫ペダル」にがっつり引き込まれた今では、かなりこの競技が身近になりました(^^)
とはいえ、グランツールに関しては全くの無知で、
裏表紙の石畳の写真がありがたいなーと思いながら読んだんですけど(笑)
恐るべし、石畳コース…。

さて、このシリーズを絶賛しておきながら、実はすっかり過去作の詳細が頭から抜けてしまってるんですが、
どうやら今作はシリーズ二作目、「エデン」の続編に位置する作品になるようですね。
ミッコの名前は記憶にあったけど、ニコラはもう忘れちゃってたな…。
これを読む前に「エデン」を読んでおけば、もっと細かいところまで楽しめたのかもしれませんね。
ちょっと無念…。


<内容紹介>
得体の知れない過去の幻影が、ペダルを踏む足をさらう。それでもぼくたちはツールを走る。すべてを賭けて! 黒い噂が絶えない、堕ちたカリスマの復活。選手やファンに動揺が広がる中、今年も世界最高の舞台(ツール・ド・フランス)が幕を開ける。かつての英雄の真の目的、選手をつけ狙う影、不穏なレースの行方――。それでもぼくの手は、ハンドルを離さない。チカと伊庭がツールを走る! 新たな興奮と感動を呼び起こす、「サクリファイス」シリーズ最新長編。


(少々ネタバレ気味。気になる方はご注意を!)



チカ、大人になりましたね…。もう30になるんですね…。
宝塚のトップさんが、「トップに就任した時から引退の事を考える」と言いますが、
まさに今がチカの絶頂期なのかもしれません。
経験と実績をそれなりに積んで、肉体もまだまだ丈夫で、さあ万全だと思ったところに、
その先の下り坂が視界に入ってくるんですね。
まだまだ十分に働ける身でありながら、その先の引退を考えずにはおれない。
その境地に達しているチカの姿が切なくて切なくて…(涙)。
自分自身でいっぱいいっぱいな若い頃と違って、年を経てくると、やたら視野が広がって、
余計なことまでいろいろ考えてしまうんですよね。
そんなチカのもやもやが、読んでて切なかったけど、とても引きつけられました。
もともとチカは「アシスト」という立場だけど、ロードレース界に所属する身にとしても、ピークを過ぎ、
若い選手が主役を張っていく中で、チカは「アシスト」のような立場になってきたんだなぁという印象です。
自分自身も先が見えない不安な身であるのに、周りに配慮しすぎだろ、チカ。
だからメネンコに変な依頼をされたりするのか?(苦笑)
とにかく今回のチカは周りへのおせっかいで大変そうでした(^_^;)

チカより更に明確に、ロードレース界引退を頭に思い描いた選手、かつての英雄、メネンコも印象深かったです。ただラストの方の書き込みが少なくて、もうちょっとメネンコの心理について、
掘り下げて読んでみたかったなあと思ったんですが。
結末を曖昧にしたラストも、続編を想定したものなのかしら??

伊庭も今回再登場。
チカと同い年でありながら、グランツールでは初心者でスプリンターという、
チカと対照的な様子が面白かったです。
ポンコツになるまで走るというチカと、最後に大舞台で一花咲かせようとする伊庭ですもんね。
レースに向かう姿勢が全然違うんだもの。
チカとミッコとのやりとりも、今は敵ながらいい信頼関係が築けていて微笑ましかったです。
チームメイトのニコラも凛々しくエース然としていて素敵だった。
と言いながら、過去の出番をすっかり忘れてしまってたので、また「エデン」を読み返さなくちゃ。

そしてこのシリーズの難点だった、ろくな女性が出てこないというのが、今回払拭されていてよかったです(笑)淡々としたチカの、らしくない様子が見れて、なかなかおいしかったです。この先どうなる??

近藤さんが新聞の記事で、この先、何作になるかわからないけど、
チカの引退は描きたいというようなことをおっしゃってました。(すみません、うろ覚えです…)
今作を書きながら、引退の場面を強く意識されたのだろうな。
なんにせよ、まだ終わらないようなので、ファンとしてはうれしいです。
チカは「下りのスペシャリスト」ですからね。
たとえレース人生が下りに差し掛かったとしても、
さらに華々しく鮮やかにラストまで突っ走ってくれることを望みます。


『ギケイキ 千年の流転』 町田康

やー、面白かった!
町田さんは名前しか知らなくて、多分私の好みの作風ではないだろうと(←失礼(^_^;))、
これまで読むこともなかったのですが、タイトル見て飛びつきました。
「ギケイキ」→「義経記」ですからね。

どういう設定かよくわからないんですが、冒頭で「ハルク・ホーガンと聞くとハルク判官と変換してしまう」などと、
私レベルの阿呆なことを言い出す彼が、語りの主人公・義経なわけです。(※判官→源義経のこと)
生まれ変わってかどうかは知らないけれど、なぜか現代を生きてるらしい彼が、
自分の生い立ちを現代感覚の現代語で語りだすという体裁。
(現代語っつーか、義経たちめっちゃノリ軽いッス。)
町田康さんは、想像通りちょっとクセはありましたが、
でもでも面白さの方が上回って、がっつり引き込まれて一気読みでした!

義経記」については、私も原典は読んでないんですよね。
でも以前「大塚ひかりの義経物語」という超訳義経記」とも呼べる本は読みました。
その記事を見ていただければわかるかと思うんですが、ヒーローであるはずの義経さん、
「ほんとそれかっこいいのか!?」とツッコミどころ満載の事をやりまくっております。
これをシリアスに小説化なんてしたらおかしなことになりそうだと思ってたんですが、
そっか、こうやってパンクにしちゃうと結構ハマるのね!と新発見。

読んでると、カタカナ語、現代語、英単語、方言、etcの列挙で突き進む、むちゃくちゃな話なんですよ。
義経さん、好き勝手言いたい放題やりたい放題じゃないっすか、町田さんやりすぎですよ、
と言いたくなるのだけど、怖いのは、
こんな無茶苦茶な話が実は思った以上に原典に忠実なところなんですよ…。
義経たちが腹の中などで言いたい放題なのは、町田さんの解釈(andツッコミ・笑)もかなり入ってるんですが、
彼らの言動はほぼ忠実なんではないでしょうか。(私も原典を読んでるわけじゃないんですが…)
町田さんの暴走気味なテイストが、無茶ぶりな原作と絡み合って、なかなか面白い作品になっていました。

実際、どんな感じかちょっと見てみましょう。

以下、義経が鏡の宿で盗賊をやっつけた時に、義経が書いた立て札の文面を「ギケイキ」から引用します。


「見よ。悪い奴を誅殺したのでここに晒す。あの有名な盗賊、出羽国の由利太郎、越後国の藤沢入道、及びその配下三名である。となると、おまえ誰?って話に当然なるだろうが、一応、匿名希望である。京都三条の金商人・吉次の関係者といまは言っておこう。私の十六歳のデビュー作と思ってもらっていい。京都を出る記念イベントとしてこういうことをやらせてもらった。もっと詳しく知りたい人は鞍馬寺の東光坊あたりにいって聞いてみるといいよ。きっといろいろ聞けると思う。承安四年二月四日」

いやいや、こんな自己顕示欲たっぷりなフリーダムな立て札たてちゃいかんだろと思うと、
大塚さんの本では次のように超訳されているんですね。

「音に聞くらん、目にも見よ。出羽の国の由利太郎、越後の国の藤沢入道ら、盗賊五人の首を斬って、通る者を誰だと思う。黄金商人三条の吉次にとっては縁ある者だ。これこそ十六歳の初手柄だぞ。都を旅立つ門出の置きみやげだ。詳しいことを聞きたければ、鞍馬の東光坊の辺で聞け。承安四年二月四日」

って、内容ほぼ一緒じゃん!
ちなみに原文はこちら。

「音にも聞くらん、目にも見よ。出羽の国の住人、由利の太郎、越後の国の住人、藤沢入道以下の首五人斬りて通る者、何者とか思ふらん。黄金商人三条の吉次が為には縁あり。これを十六にての初業よ。委しき旨を聞きたくば、鞍馬の東光坊の許にて聞け、承安四年二月四日」とぞ書きて立てられける。さてこそ後には源氏の門出し済ましたりとぞ舌を巻いて怖おぢ合ひける。


いやいやおそろしすぎる、義経様。

だけど私の中でも、もともと「義経さん=わけわからん人、頼朝さん=得体のしれん人、
弁慶=行き当たりばったりな人」という印象で、そのイメージからはそんなにかけ離れてませんでした(笑)
あ、でも頼朝さんは想像よりは人間臭く書かれてたなー。

これ読んで、今大河でやってる「真田丸」を思い出しました。
脚本の三谷さんは、史実はほぼ忠実に抑えつつ、その余白の部分でかなり遊んでいたり、
奇抜な解釈を入れたりして、歴史ファンにもそうでない人にも楽しめる作品を書かれています。
今回もそんな感じに近いです。
基本は「義経記」を抑えながら、現代では理解しがたい彼らの不可解な言動を、
町田解釈でわかりやすく読みやすく、その上、面白く書かれています。
ふざけた雰囲気の本だけど、実は入門編にぴったりなのでは、と思います。

でも実はこの本、一冊では完結しないのです。
私は読む前に知っていたので戸惑うことはなかったですが、
知らないと中途半端なとこで終わってビックリすることになるんだろうな。
この本では、義経が弁慶と出会って、そのあと旗揚げした頼朝に会いに行こうとするところで終わっています。
全4巻の予定だそうで。

男女問わず人に好かれまくりな義経さん(稚児出身だから菊○が狙われるのも仕方がない!?)、
義経記」ではなんだかんだと慕われた方々と泣く場面が多かった気がするけど、
この本の義経さんはあんま泣きそうにないなぁ。この先泣くのかなぁ?
義経記」では、義経さんの一番の見どころの源平合戦がほとんど描かれないのだけど、
この本でも省かれちゃうのかしら…(>_<)
平家さんの出番が見たい私としては、そこは描いてほしいのだけど…。
まあなんにせよ、続きが楽しみ、楽しみ。
長期連載になりそうですが、じっくりお付き合いしていきたいと思います(^^)/

『下町ロケット2 ガウディ計画』 池井戸潤

これはですね、先に新聞で読んでたんですよ。
本は新聞連載の時よりかなり書き足されているようなので、同じものとは言えないのですが、
再読に近い感じで読みました。
新聞連載を読み終えた後は結構感動したんですが、今回は良くも悪くも落ち着いて読んじゃった感じ…。
でも今回一気読みでしたし、面白く読んだのは間違いないです!
ちなみにドラマは全く見ておりません…(^_^;)なんか阿部さんがイメージじゃない気がして…。
でも評判は良かったみたいですね(^^)


<内容紹介>(出版社HPより)

その部品があるから救われる命がある。
ロケットから人体へ――。佃製作所の新たな挑戦!

ロケットエンジンのバルブシステムの開発により、倒産の危機を切り抜けてから数年――。大田区の町工場・佃製作所は、またしてもピンチに陥っていた。
量産を約束したはずの取引は試作品段階で打ち切られ、ロケットエンジンの開発では、NASA出身の社長が率いるライバル企業とのコンペの話が持ち上がる。
そんな時、社長・佃航平の元にかつての部下から、ある医療機器の開発依頼が持ち込まれた。「ガウディ」と呼ばれるその医療機器が完成すれば、多くの心臓病患者を救うことができるという。しかし、実用化まで長い時間と多大なコストを要する医療機器の開発は、中小企業である佃製作所にとってあまりにもリスクが大きい。苦悩の末に佃が出した決断は・・・・・・。
医療界に蔓延る様々な問題点や、地位や名誉に群がる者たちの妨害が立ち塞がるなか、佃製作所の新たな挑戦が始まった。

日本中に夢と希望と勇気をもたらし、直木賞も受賞した前作から5年。
遂に待望の続編登場!



(少々ネタバレ気味の感想です。未読の方はご注意を!!!)



王道、池井戸作品って感じですね。もう展開が分かってるんだけど、でも面白い。
それが池井戸クオリティ!!
ロケットの部品を作ってた会社が今度は小宇宙=人体にチャレンジするってのが、面白いなぁと思いました。
全然ベツモノのようなのに、「宇宙」で繋がるこの二つに挑戦する会社って、なんかスケールがでかくって、
夢を熱く語る佃社長らしいなぁと。
まさに「夢」の結晶のようではないですか。

一番胸を打たれたのは、心臓弁を作る立花とアキちゃんが試作づくりに行き詰った時に、
心臓病を抱える少年の手術に立ち会って、自分たちの仕事の本分に還る場面。
そういう揺るがない土台を持ってこそ、尊い仕事ができるのだろうなぁ。
社会に出るとたくさんの理不尽と戦わなくてはいけなくて、ただの正義感だけじゃ挫折しかねません。
もっと確固たる土台が必要なんですね。
そういう足元を確認する過程が描かれていた、この部分はジーンときました。

ただ、読後に振り返って、残念に思ったこともいくつか。
まず佃製作所が乗り越えるべきハードルが、ただの人の嫌がらせでしかないところ。
結局、佃の技術力を妬んだ人たちが、邪魔してくるから、彼らが困難にぶつかってしまうわけで…。
だから敵方になる方々がみんな悪者感が半端ないんですが、それもあんまりかなぁと。
もっと、敵方なんだけど、彼らは彼らで一生懸命というのがもう少し見えたらよかったのに…。
(それっぽいセリフはあったけど、その前後がひどすぎて、あまり親身で聞けなかった…)
池井戸作品なんだから勧善懲悪なのはわかってるけど、椎名さんなんか、せっかくのNASA設定が、
肩書と人脈くらいしか活用されてなかった…。もっと技術的にもNASAっぽさを見てみたかったなぁ。
貴船先生の最後の改心もなんか取ってつけたようで残念。
最後、一村先生と「コアハート」に取り組むくらいの可能性をもった善意を、作品途中で見たかったです。
もう作中ずっと、権力に目がくらんだただの悪い先生でしかなかったもんなぁ。
あと、全体的に浅さを感じてしまったのは、
池井戸さんお得意の銀行が絡まなかったせいだろうか…とか思っちゃいました(^_^;)

でもそんな瑕疵が、読後反芻し直してからしか、思い浮かばなかったくらい、
読んでる間はがっつり引き込まれて読みました。
やっぱ池井戸作品の読ませる力はすごいです。

あと感慨深く思ったのは、佃社長が前作よりずいぶん控えめになっていたこと。
前は先頭切って、社員を引っ張っていっていたのに、今回は割と裏に回って見守るって感じでしたね。
佃社長の精神が社員たちにも行き渡ったのだと、佃製作所の成長を感じました。

テレビ「ガイアの夜明け」が大好きな私。
日本のモノづくりの現場を覗けるようなこのシリーズは、やっぱり読んでてとても面白いです。
続編も是非是非期待したいです!