駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『望郷』 湊かなえ

島で育った人たちが主人公の物語。
だけど、島暮らししてなくても、田舎暮らしをしてなくても、
読み手が共感を覚える部分がたくさんあったと思います。
そこは湊さんの巧さですよね。
同じような経験をしてなくても、同じような人が身の回りにいなくても、なんか「わかるわかる」と思ってしまう。
そう思ってるうちに物語に引き込まれてしまう。

今回は読みながら、島の閉塞感って家族という囲いにも似てるな、と思いました。
主人公たちは島に囚われながらも、同時に家族にも囚われていました。
島という、周りを海で囲まれた世界。出ていこうと思えば出ていけるけど、
離れるに離れられない妙な執着だったり、とにかく早く飛び出したいという衝動に駆られたり…、
それって家族にも共通するように思うのです。
家族のせい、島のせいと言ってた部分は甘えからくるものでもあり、
逆に周りからの妬みや嫉みも身内感覚からくるなれ合いの中で生まれる感情だと思います。
個人主義が強くなってきて、他者と自分の境界線をきっちりつけたがる現代だからこそ、
家族や島暮らしという、個人の境界線が曖昧になるくくりに起こりうる、
煩わしいあれこれがリアルに描かれていきます。
息苦しい家族があり、そして不自由な島という環境がある。
でも閉塞感に満ちているようで、それは救いにもなるのです。


「みかんの花」
語り手の一方的な主観からの反転はよくある手法ですが、湊さんらしさが出てて面白いです。
お姉さんへの視点が本当にひどい(苦笑)
出てったきり一度も島に帰ってこない薄情さや、
もてはやされる場面にいそいそと出ていく傲慢さなど責めまくって言いたい放題ですが、
それが全てどんでん返しが繋がっていくんですもんね。見事です。
その真相にはちょっと無理があった気もしますが、島の描写が良いので相殺。
(湊さんご自身の家もみかんを作ってたようですね。だからこそのリアリティ!)

「海の星」
あやしいおじさんの真相は?
主人公の主観に合わせて、おじさんはほんとにお母さん狙いなの?と思いながら語りに引き込まれていくと、
意外な真相にたどり着きます。きっと実際にある話なんでしょうね。
漁師は死体が網にかかるとそのまま流す。親切心で引き上げても警察に執拗に追及されるから
切ないですよね。死体が上がらないばかりに、吹っ切ることもできず、なにもかも中途半端になっちゃって。
そんなモヤモヤした話が最後には美しく幕を引きます。
おじさんが海で救いあげたのは海ほたるでしょうね。
私も水族館の実験コーナーで見たことありますが、きれいなブルーに光ってました。
部屋の中で見たので、人工的な光にも見えましたが、海で見るときっと素敵でしょうね。
表紙のイラストもこの海の星かな。

「夢の国」
ちょうど去年初めて夢の国へ行ったので(笑)、細部が想像しやすかったです。
(それまでファストパスとか知らなかったもん~)
私は特別、夢の国への憧れはなかったのですが、
「行けない」と言われれば言われるほど強烈に引きつけられる気持ちはわかります。
でも縛られているもの、縛っているもの。自分を不自由にしているのは、本当はなんだろう?
誰かのせいにしてわざと選択肢をなくして、その道を選ばざるを得なかったみたいな形で納得させる。
結局本人次第なのかな、と。
夢の国は、実際のテーマパークじゃなくて、
今のしがらみを断ち切った先の象徴のようなものだったのでしょうね。
でもその根本は、わがままな祖母でも弱い母親でもないんじゃないかな。
だって環境が変わっても繰り返されるんだもの。
ドリームランドに行けなかったことを一緒に嘆く平川、つまり自分と同類の彼を選んだことで、
彼女はしがらみから抜け出せきれなかったのかもしれません。

「雲の糸」
とにかく延々と不愉快さがこれでもかと押し寄せてくる話。
でもこれ、島の人たちが相当嫌な感じで書かれてますが、
語り手を替えたらずいぶん違った印象になると思うんですよね。
まあ的場の身勝手さは変わりないだろうけど。(でもこういうのきっとありがちですよね)
結果成功した彼の語りで読むから、不愉快ながらなんとか読めるけど、
これ母親側の心理描写とか読めないですよね…。やりきれなさが半端なさそう…><

「石の十字架」
「光の航路」
この二作、いじめ問題という難しい問題に、湊さんなりのメッセージが込められていると思いました。
「いじめ」って三文字で言っちゃうと、確かに軽い気がする。犯罪そのものなのにね。
いじめは一人や少人数で何とかなる問題じゃない根深いものなので、本当に難しいし、
友達の度量や担任の力量にも大きくかかわってくると思います。
(だからって担任一人が責任を負うものではないと思う)
親は、言葉で伝えるな、行動で示せと言いますが、
まさに「光の航路」の父親はその背中で語っていたのだなぁ。
父からのメッセージが、間に合ってよかった。

あんまりいい風に書かれてない島の人たちですが、それこそ島出身の湊さんにとっては、
身内に厳しくなっちゃう視点なんだろうな。だけどタイトルは望郷。悪いばかりではない。
「ふるさとは遠きにありて思ふもの…」、自分の育ったふるさとは、良くも悪くも自分の土台になっている。
それは家族も同じ。
大事なのは、その土台から自立していくことなんだろう。
いいことも悪いこともそこで学んで、やがて自分の道を見つけることなのだろう。

これを読むと、「共依存」という言葉を連想します。
(以下、ウィキペディアより抜粋)
共依存とは、自分と特定の相手がその関係性に過剰に依存しており、その人間関係に囚われている関係への嗜癖状態を指す。すなわち「人を世話・介護することへの依存」「愛情という名の支配」である。共依存者は、相手から依存されることに無意識のうちに自己の存在価値を見出し、そして相手をコントロールし自分の望む行動を取らせることで、自身の心の平安を保とうとする。

共依存」とまではいかなくとも、そういう傾向の方々が描かれてますよね。
自分を過小評価するが故に、相手に認められるため、自己犠牲的に動いてしまうのが共依存です。
内心不満をいっぱい抱えながらも断ち切ってしまえない、不幸な状況。
でも家族の本当の想いを知り、自分の本当の気持ちに気づいた時にこそ、
悪しきしがらみから抜けられるんでしょうね。

湊作品が続きましたが、この本はかなり良かったです!
おススメ!!